第41話 大収穫を目指して【一章・完結】

 たくさん魔法を使うお陰で、飢えていた頃とは別種の空腹がくる。

 その上、札付きの調理人セラルドの料理は絶品だ!

 いくらでも食べられてしまう。かなりの量を食べるリデルを、レヴィンは嬉しそうに見ている。

 

 

 

 使用人たちの食堂でも、セラルドの調理する料理の数々は大人気だ。

 結構、皆、気安く希望や注文を出している。

 今は食材を豊富に仕入れることが可能なので、たいていの料理は注文に応えてもらえている。

 

「衣食住が足りてるって、ホントに幸せですよぉぉぉ」

 

 リデルは、レヴィンと城の様子を確認してまわりながらウキウキと声を立てる。

 雇用した者たちは、皆、何気に満足そうな表情で働いていた。

 リデルと同様に、札付きにされた者が大多数だ。皆、城にタダ働きさせられることの恩恵が心から有り難いだろう。

 

「いつ札がとれても、ちゃんと給金払えそうだからな。ホッとしてる」

 

 レヴィンはご機嫌だ。

 魔道具は、出し渋りしながら売りに出しているが高額商品だ。レヴィンの金庫にはガンガン蓄財されている。

 それに、塩が美味しいと好評で定期客がついた。

 

「塩の出所でどころはバラせませんねぇぇ」

 

 探りを入れてくる業者もいるのだが、運び入れているところを目撃できないし魔法の強く働くレヴィンの城では密偵をいれたところで無駄だ。

 そもそも最初の段階で、執事のベビットに見抜かれる。

 

「尽きるどころか、塩の湧き出す量は増えてるからな。驚きだぜ」

 

 いつか塩の出なくなる日が来るかもしれないが、まあ、塩だけに頼ってはいないので問題はない。

 

「そういう魔道具も、増やせるといいんですがぁぁ」

 

 塩の湧き出る壺も、造ろうとして造った魔道具ではない。造ろうとしても、造れない。

 

「有益な失敗魔法に期待してるぜ? 面白いもの造ってくれ!」

「はいぃ! 畏まりましたぁぁ!」

 

 幸せだ。

 

 

 

 ソジュマの精霊ランベールとフィリシエンの棲む神殿には、時々、セラルドの料理を差し入れとしてリデルの魔法で届けている。

 普段は、ランベールがフィリシエンの食事を調達しているようだ。

 ランベールは食べる必要はない。だが、フィリシエンはソジュマの姫ではあるが人間に違いはなく普通の食事も必要だ。

 

「いつもありがとう! まだ当分は、普通の食事が必要なんですって」

 

 たまにレヴィンと共に、直接、料理を届けに行くと、フィリシエンは嬉しそうな表情で神殿のなかへと招き、不思議な味わいの茶を振る舞ってくれる。

 

「変わった味だな。けど、美味うまい茶だ」

 

 レヴィンは感心したように褒めている。

 その茶は、精霊であるランベールも飲んでいた。

 

「有り難いことに、聖なる薬草『白雲草』が、この森に自生しているの」

 

 フィリシエンは笑みを深めて応える。

 精霊の好む薬草だ。

 

「あゎゎ、茶にできるほどの量がおありですかぁぁ」

 

 リデルの言葉に、レヴィンが驚いた表情になる。

 

「おっ、貴重な茶だったか。済まねぇな」

 

 美味かったぜ、と、言葉を足している。

 

「ご心配無用ですよ。群生しているの」

 

 フィリシエンは嬉しそうな表情だ。たぶん、精霊ランベールの力で、一気に育ったのだろう。

 

 食べる必要がないとはいえ精霊ランベールも、白雲草の茶くらいはほしいところに違いない。常飲していれば、いずれフィリシエンも精霊化して行く。

 精霊ランベールに長く添い遂げるには、必要な薬草だ。

 

 

 

 リデルの失敗魔法も順調だ。匡正きょうせいの魔石の更なる進化を目指して日々頑張っている。

 

「ああ、また面白い魔道具ができましたよぉぉ!」

 

 失敗魔法で造ったガラクタも、直ぐに魔石の改良魔法で完成した魔道具になる。

 最近は、特に目的なく魔道具を造っているので、ガラクタが何に仕上がるのかリデルにも予想が付かない。

 改良の魔法で仕上げた魔道具を、自分で鑑定しながらリデルは驚きと、楽しさの両方が味わえた。

 

「どんな魔道具なんだ?」

 

 興味津々という表情でレヴィンが覗き込んでくる。

 

「『遠見の鏡』のようですぅ。普段は花瓶として飾れますねぇぇ」

「花瓶が鏡に変わるのか?」

「そのようですぅ」

 

 リデルは豪華な細工の花瓶を掲げてみせながら、それを手鏡に変えてレヴィンへと手渡す。

 

「どれどれ。おっ、確かに、遠くの景色が視えてるな。ザクの様子とか、見られりゃあ安心なんだが」

「司祭さんのところは、結界で弾いてますから視えないかもですぅぅ」

「なるほど。別に、領地に入って来られないなら問題ねぇよ」

 

 変形する魔道具が、最近は頻繁に造れている。

 普段は身につける装飾品だが、効能ある魔道具に変化させて使用する、というたぐいだ。

 

「魔石の進化が、今から愉しみですぅ」

「焦らず、のんびりやれよ?」

 

 次の進化までには、かなりの失敗数が必要なことはレヴィンも良く理解してくれている。リデルは嬉しそうに大きく頷いた。

 

 

 

 札付きの雇用も一気に増え出している。

 そろそろ搾取できなくなっていることで、ネルタック男爵の一味は歯噛み状態に違いない。

 ちょっとヒヤヒヤするのだが、レヴィンは調停屋側が動き出すのを待ち構えている節もある。

 

「リデル様、北の農地が若干、水不足気味らしいです!」

 

 執事ベビットからの報告が入って来た。

 

「はゎゎ、済みません! 見落としてましたぁぁぁ!」

 

 リデルは魔女の眼を働かせながら、箒を振るって魔法を仕掛ける。

 

「はいぃ! これで、完璧ですぅ!」

 

 農地を豊かにする魔法は、レヴィンの命令付きなので失敗することはない。

 的確な魔法で、適度の水やりとついでに程良い肥料が農地に与えられた。

 

「あまり、無理するなよ?」

 

 気合いの入っているリデルを眺め、レヴィンは声をかけてくれる。

 

「はいぃ! 全く問題なしですぅ!」

 

 リデルは秋の大収穫が楽しみでならない。

 それまでには、ネルタック男爵や調停屋たちと、やり合うことになるに違いないが。

 もっともっと。皆のためにも、魔石を進化させ、役立つ魔道具を造ろう。

 

 レヴィンが雇用してくれているから。レヴィンが婚約してくれているから。わたしは、道を誤らず生きて行ける。それは、リデルの確信だった。

 

 

  

                  (一章・完)

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ポンコツ魔女は終身雇用されたい  ~婚約した領主の溺愛は呪いに阻まれる~ 藤森かつき @KatsukiFujimori

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