第2話 ある春の休日・発見
その次の日が土曜日で休日だったから、碧乃と遊びに出掛けることにしていた。小学校時代も、毎週ではなかったけど、週末はかなりの頻度で2人して遊んだ。私も碧乃も変わり者だから他の皆と大勢で出掛けることはなく、気付けばいつも2人で。私の家で過ごしたり、本屋さんをハシゴしたりした。共通の趣味は実のところあんまりなくて、私は私の好きなように、碧乃は碧乃の好きなように時間を使っていた。それでも互いに無関心ではなくて、長い付き合いで互いの好みは熟知しているようなものだし、私の好みもちょっとずつ碧乃の影響を受けて変わってきた。碧乃の興味も昔とは違っていて、それは多分私の影響だと思う。これは自惚れかな?
今日もちゃんとお母さんに通達して、遊びに行く許可は取ってある。待ち合わせ場所はいつもの、碧乃のアパートの向かいの公園の
影が落ちる。
「何やってるの?」
「あ! ナズナ見てたの」と碧乃に手を振る。
「おー、かわいい」
いつも通り遅れて来た碧乃は、モノクロのチェック柄のシャツの裾を、黒いスカートに入れて、紺色の肩掛けカバンを掛けている。碧乃の、もとい莉央さんのセンスには感服せざるを得ない。
私はといえば、ベージュの長ズボンに、”PEACE”という文字が入った白いTシャツを着ていた。去年も着ていた服で、小学生っぽいかなとは思うんだけど、PEACEは平和って意味で私の名前と合っているから、まあいいやと思って着ている。実は少しお気に入りだったりする。
でも今日は碧乃が、そんな私に服を選んでくれる。
「お金持ってきた?」
「うん。服買いに行くって言ったら、一万円渡された」
ベンチの上のゴツいリュックから、財布を取り出してみせた。
「長財布、いいなぁ」
中学生になったら友達と遊ぶのにお金使うようになるだろうから、とお父さんが昔使っていた長財布をもらった。でも正直、碧乃以外の子と遊ぶことはないんじゃないかな、とは思うけど。
「で、今日は何が入ってるの、そのリュックサック?」
「えーっと、『都市の花草木』でしょ、色鉛筆とスケッチブックでしょ、あと『ラヴクラフト全集』が1巻から4巻まであって、それにティッシュ箱とハンカチ2枚」
『都市の花草木』は私がお気に入りにしている本で、植物の写真が載っている写真集と図鑑の中間みたいな本。色鉛筆は24色だ。用途は多用途。
「なるほど春装備だね。なんか別のが入ってるけど」
「えぇー、春といえばクトゥルフ神話だよ」
「この前借りて読んだけど、季節の読み物じゃないでしょ。強いて言えば夏だけど……」
碧乃に『ラヴクラフト全集』を貸したのは私だ。小学校6年の3学期におすすめして、半ば押し付けるように貸した。感想はもらってないけど、様子を見るにつけ、好きでも嫌いでもないというところか。
「夏は、発泡スチロールの箱に氷とアイス入れて全部だよ」
「そうえいばそうだったね……!? 去年冷え冷えの棒アイスが出てきたときはほんとびっくりしたよ」
「今年もやります。……で、どこ行くの?」
「駅前の古着屋さん。いつもは行かないでしょ?」
「だねー。お母さんとバイパス沿いのとこで買ってる」
「安いんだけど、駄目になりやすいんだよね、ファストファッションだから」
「ファストファッション?」
「そう。流行に合わせた服を大量生産する」
「よく分からん」
「ま、いいよ。行こ」
「うん」
アパート前の公園を出発した私たちは、バス停に向かった。県道には車が行き交っていて、排気ガスの嫌な匂いがする。数分待つと、赤い循環バスがやってきた。しゅううう、と空気が抜けるような音がして、入り口の扉が開いた。
私達を乗せたバスが発車する。行き先は真上駅。エンジンの振動が身体にも伝わってくる。
私の幼馴染は男の娘 雲矢 潮 @KoukaKUMOYA
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