五 顔合わせ

 その日の昼休みに智樹は三階にあるホールに呼び出された。

 音楽教室や集会ホールしかない三階は、幽霊が出るという噂もあり、いつも閑散としている。

 集会ホールに智樹が入ると、二人はすでに待っていた。扉の開閉音に二人が振り向く。

 本当に知り合いだったのか。朝の話こそが嘘の可能性も考えていた智樹は意外な気持ちで二人の顔を見返した。

「やあ」「こんにちは」

 それぞれに軽く挨拶をしてくる二人に、智樹も挨拶を返した。

 集会ホールはすり鉢状に段々になった床に椅子だけが並べられている。一番下段がステージで、スクリーンやら教壇やらが置かれていても十分広い。

 ステージに三つ椅子が用意されていた。そのうち二つはすでに常盤と土御門が座っている。

 智樹も残り一つの席に腰掛けた。

「さて、二人とも来てくれてありがとうございます。今日から恩田くんが新たに監視役を手伝ってくれることになったので、改めて自己紹介を」

 土御門がまず初めにそう言った。その横で常盤は何を考えているのかいまいちわからない平坦な顔でいた。

「まず時雨ちゃんから」

 水を向けられて、常盤はようやく微笑んだ。その笑みはどこか妖しい。

「改めて、常盤時雨。昨日言ったとおり、吸血鬼だよ。よろしく」

 常盤は短くそう告げて、また黙り込んでしまう。土御門が困ったように眉を下げ促すと、ほんの少し言葉を重ねた。

「時雨ちゃん、もっと何かないですか?ほら、吸血鬼になった歳とか」

「吸血鬼になったのは、小学校に上がる前だよ。私自身はあまり覚えてないかな」

 吸血鬼になる?聞いたことはあるが、詳しいことは知らない。たしか吸血鬼って初めは普通の人間なんだっけ?

 智樹が内心首を傾げていれば、その疑問が顔に出ていたらしい。土御門が説明してくれた。

「恩田くんはあまり吸血鬼のこと馴染みがないんでしたね。吸血鬼はね、生まれてきた時は普通の人なんです。ミルクを飲むし、普通の食事をする。吸血鬼になるのは、個人差があるけれど大体中高生くらい。だから、時雨ちゃんはすごく早い方なんです」

「へえ、そうなんだ」

 所詮他人事。智樹の返事は興味のなさが透けて見える、いっそ冷たいものだった。

 続いて、土御門が自己紹介する。

「土御門ほまれです。これでも陰陽師の端くれです」

「陰陽師?」

 というと、あの陰陽師だろうか?安倍晴明とか。なんというか…胡散臭い。

「ご想像の通りで間違い無いと思いますよ。私の家は代々国に仕えている術士でして、私もいずれ。まだ見習いですが、これでも将来を期待されてるんです。そういうわけで、国の依頼で我が家が時雨ちゃんの監視を請け負いまして、私が出張してきたんです」

 その歳で仕事してるのは家の事情だったのか。

「次は恩田君の番ですよ」

「いや、俺のことは二人とも知ってるだろ。二人みたいに特別な事情があるわけじゃないし、いいよ」

「そうですか?」

 土御門は不思議そうに首を傾げる。

「それで、常盤はなんで昨日あんな嘘・・・」

「嘘?」

 智樹が今日ずっと疑問に思っていたことを切り出すと、常盤は何故か首を傾げた。

 怪訝に思って再度問いかけようとした時、土御門が遮ってきた。

「まあいいではないですか。それより、恩田君は吸血鬼のことどれくらい知ってますか?」

 慌てたような様子はないが、誤魔化し方からすると、嘘をついていたのは土御門の方らしい。まあ、俺には関係ないけどさ。

「えーと、吸血鬼といえば、血が主食ってことぐらいかな」

「まあ。今時そんなに知らないのは珍しいですね。ちょうどいいので、一通りお教えしておきますね」

 土御門はそう言って、吸血鬼についてレクチャーを始めた。

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徒花 阿_イノウエ_ @inoue_2424

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