恋の旋律

小悪魔はく

恋の旋律

らなきゃよかったことがある。クラスの男子だんし余命よめい

それをったのは、合唱がっしょうコンクール本番ほんばんヶ月前かげつまえだった。


「どうしてそんな大事だいじなこと、わたしおしえたの」

「だっておまえピアノの伴奏者ばんそうしゃだし、当日俺とうじつおれ指揮しきできるかからないじゃん」


かれった。

わたし鍵盤けんばんあたませて、ダーンと心臓しんぞうふかひびくピアノのおとをならした。

かれは「ほら、かおあげてよ」とわたしかたいた。


おれがいなくてもけるように、練習れんしゅうつづけよう」


それからわたしたちは毎日まいにち、クラスみんなと合唱がっしょうしたあとに、こっそり練習れんしゅうかさねた。


「これでもう、おれがいなくてもけるね」

「いなきゃ無理むりだよ」

「いいや、だっておまえ、目閉めとじながらいてるよ」


かれ指揮しきをみていると、なみだそうになる。

わたしはもう、かれ指揮しきをしていなくても、いつもっていた。

かれしろくてほそうでがあがる。かれわせ、わたしはすこしかなしげにわらう。

しろくてはかなかれのひらが、ちゅうせんいて


「それじゃあ、いくよ」


って、かれ口角こうかくがる、わたし深呼吸しんこきゅうして、かれとひとつになる。

本番当日ほんばんとうじつわたしたちの合唱がっしょう指揮者しきしゃはいなかった。

それなのに、みんなのこえはどのクラスよりもそろっていて、みんななみだながした。


『ねえ、どうして指揮者しきしゃ立候補りっこうほしたの?』

『おまえはらなくていいよ、そんなこと』


かれくなってすこしして、音楽室おんがくしつ黒板こくばん落書らくがきをみつけた。

それはかれわすれた、わたしへの唯一ゆいいつ秘密ひみつ


『スキ』


の2文字もじだった。そうえば、かれはよく、わたし無駄むだっていた。

指揮しきをしているのだと勘違かんちがいしていたけれど、あれはきっと何度なんど何度なんども、

その2文字もじいていたんだとおもう。無邪気むじゃきかれ姿すがた

わたし今日きょう放課後ほうかごピアノをく。かれささこい旋律せんりつ、『スキ』とう2文字もじを。

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恋の旋律 小悪魔はく @kanzakiior

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