居心地の良い場所

ミーミー

第1話

このマンションのこの場所に私は昨夜からずっととまっている。

灯を求めてここに飛んできたのだが

マンション内は薄暗く、なんだか居心地が良くて動けなくなった。


私は大きな蛾だ。みんなに嫌がられる大きな蛾。



朝になっても誰も気づかなかった。


エレベーターのすぐ近くにとまっているというのに

ここのマンションの住人たちは

私の存在に気づかない。

こちらを見向きもしない。

目線にいてもスルー。

私はビックリしたがとても気持ちが良かった。


快適だ。


私は夕方まで気づかれなかったことに自信をもった。


ここを私の拠点にしてもいい。


涼しくて

人間たちも静かだ。


私の姿を見て、みんなが嫌がる。

悲鳴をあげたり、のけぞったり、動けなくなったり。

そのことに

私は少し疲れていたのだ。

なぜ「蝶」は喜ばれるのに

私はダメなのか。


まぁ、いい。

このマンションは本当に静かだ。


気に入ったし、落ち着く。

ずっとここにいることにしよう。



ここに留まりだして10年が経った。

自分では10年くらい経ったつもりだが、

本当は数日かもしれない。

相変わらず誰も私に気づかない。

さすがにちょっと不思議な気がしてきた。

このマンションの住人たちは年をとらないのだ。

いつも見かけるお嬢さんもサラリーマンもおばあさんも。誰も。静かにそのままだ。

そして灯につられて来たはずなのに

あの日からずっとこのマンションにあかりがともることがなかった。

居心地が良いからいいけれど。


私はこれからもずっとここに棲む。


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居心地の良い場所 ミーミー @mimimieko

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