金星とチョコレート

音崎 琳

金星とチョコレート

金星は金木犀の香りして見知らぬ道に憧れる秋


「やまないね」「まだやまないね」軒下で指を絡めてかえるをつくる


またあした目覚めることを疑わぬ目つきで歌う世界滅亡


夏草に埋もれるベンチもしかして地球最後の日かもしれない


瞬きの間に星が瞬きのぶんだけ過去になるなら君も


太陽に呑まれて星に戻りたい 地球から見る金星は好き


白線をちょっとそこまで月夜行 街を絵本にすり替えながら


どこからも開けられません頭蓋骨 紙飛行機の鋭利な角度


クリームの白に遭難する迷子 探す、探す、見つからないな


まだこれじゃ強度がたりないとけるからつめたくかたくラッピングして


君の目がステンドグラスの壁のなか並べる写真〈※非売品です〉


愛情を区切って区切って区切って箱に詰めたら可食部がない


満月の遠ざかりゆく帰りみち波に砕けてこなごなになれ


すききらいすききらいすききらいすき君の花までむしる傲慢


空っぽのポストを覗いたその指で前の手紙を読みかえす夜


どしゃ降りの雨になっても折りたたみ傘をひらいておとなになるよ


甘かつた日を忘れても漂つていつか浜辺に着く巴旦杏


何千年はるばる来ぬる星月夜 君の眠りの安らかであれ


ここではない場所がここにあることの証拠写真をお届けします


約束の温度で閉じるチョコレートさいごにひとつ弾ける酸素


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金星とチョコレート 音崎 琳 @otosakilin

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