七月三日、桜と彼岸花

つきねこ

めぐる想い

『拝啓 二十歳の君へ』

 お誕生日おめでとう

あなたは大人になりました。

私のことを憶えていますか?あの時のことを憶えているでしょうか?

十七歳のお誕生日を汚して、本当にごめんなさい。

この手紙を読み終わった時、私のことはもう、忘れてください。

十六歳の誕生日、七月三日、一年前のこと、いや、君にとっては四年も前の

こと。

暑い夏の日に、もうとっくに緑の葉が茂った季節外れの桜の木の下での告白は、今でも憶えています。嬉しかった。本当に嬉しかった。でも、

      …私は病気だったので、君を悲しませたくなくて…








           『じゃあね、ありがとう』

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まだ大人になんてなれていないな、そんなことを思いながら涙を浮かべ、笑う。


    一年前に届いた手紙、この手紙を思い出すのは何回目だろう。

朧げな君の顔と、鮮明な景色。僕はあの日、『真っ赤に染まった誕生日』を何度でも思い出す。

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      茜色の窓。二人きりの教室を包むように、光が、声が。

            「私、病気なんだ。」

突然に放たれた言葉に、僕は戸惑う。そんな僕を気にすることなく、君の背中越しに声が続く。

         「病気に負けて死ぬのは嫌だから。」

     窓の外、いつもの笑顔を浮かべ、手すりに足をかける。

           いつか、君は言っていた。









             『最期は笑顔で』










何もできないままの僕を置いて、時間は流れる。風がカーテンを揺らし、君の姿を隠した時、そこに影はなかった。


 「は、」息の漏れる音、机をガタガタと倒しながら、僕はベランダに出る。


     下を見ると、大きな彼岸花の上に君が横たわっていて。



          『散ることのできない彼岸花。』



   紅い花と、白い制服。僕の『誕生日』は、君の『命日』に染まった。

      

            散った君と、咲いた花。

    

     彼岸花は形を保ったまま立ち枯れ、いつの間にか無くなる。


        それでも、その花は僕の中で咲き続ける。_________________________________________________________________________


学校の敷地内で自殺なんて、大事件だ。次の日も、その次の日も、ニュースからは君の名前。何もわかっていない世論が、ニュースキャスターの声が、思い出した君の声が、、、

一つ一つの言の刃ことのはが突き刺さる。

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          「残念なお知らせがあります」


             あぁ、君は本当に。


   君を奪った病気を、そして、飛んでしまった君を、許さない。


         それでもなぜか、僕の目は、乾いていた。


帰路でただ一人、僕の嗚咽が景色を溶かしていく。曲がった景色。家の中で、僕の足元には一滴、雨が降ったような気がした。ふと鏡を見ると、そこには輪郭の歪んだ僕が一人立っていて。僕の目は、最期に見たあの彼岸花と同じ色をしていた。


病気が君を殺したなら、病気に負けないように死んだなら、僕も君に殺されるさ、孤独に負けないように死ぬさ。


虚空、明るい日々に手を伸ばし、暗く真っ赤な一日を繰り返す。そして、それが幻想であることを知る。


何度息を止めたって、死ぬことはできない。何度目を開けたって、現実は変わらない。

存在しないものを欲しがっても、叶うはずもなく、全て『過去』になった思い出を『今』に写そうとしても無駄で。


     君のことを思い出したあとは、笑顔と涙が浮かぶ。


それが嘲笑なのか、朗笑なのか、誰に、そして何に向かうのかはわからない。それでも、その出来事は、『すべて』は、真実なんだ。


 真っ赤な一日を思い出し続けた四年間。手紙を思い出し続けた一年間。

         全部同じ、僕の誕生日、七月三日。


  今年の誕生日は1人ではなく、楽しい思い出を増やそう。


 新しい日々を歩く僕は、友達も増えて、僕を慕ってくれる可愛い後輩もいる。

         誕生日を一緒に過ごすほど仲がいい。



               でも


              それでも


   君に逢いたい。浮かべた幻想、たとえそれが叶わなくても。








     もうこれ以上、君と過ごした時間と離れたくない。








   君のような笑顔で、後輩に包丁を握らせて、抱きついた。









            『最期は笑顔で』









      「なんで、、、」小さな声が僕の耳を撫でる。


        それは僕から君へ言いたかったこと。


       その声は僕の声で、その匂いは君の匂いで。


暖かいものが、体から溢れていく。

真っ赤な色が愛ならば、僕は愛を失って、流れていく。

床に、服に、あの彼岸花と同じ色の花が咲き誇る。

体は冷たくなって、君の、きみの、そして、日々の暖かさを感じる。


        それでもそこには、何も残らない。


          君がそうだったように。







         「ジャアネ、アリガトウ。」

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七月三日、もうとっくに散った桜の木の下で。

まだ大人になりきれていない少女が揺れる。一歩、大人に近づくように。

彼の愛に触れた少女は、あの暖かな花を思い出す。

風が、季節外れな桜の、その緑の葉を撫でる。

少女の持っている手紙が宙を舞う。少女は笑う。涙を浮かべながら。























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後書き

この話は半分実話です。拙いながら小説にしてみました。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

また、パソコンによる文字の調整をしているため、スマートフォンだと改行がおかしいですが、横にして読んでいただくと本来の行で読むことができます。














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七月三日、桜と彼岸花 つきねこ @tukineko1412

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