終章 最後に

目が覚める。布団から出ると着替えて、大好きなリュックを背負って家を出る。

 いつもの公園に向かいながら、約束を思い出す。

 あれは何年も前の事だった。

 夜の海を眺めている時だ。

『私が……何もかも忘れたら、ユキくんも私の事を忘れて?』

 なんで?

 その解答は、すぐに話してくれた。

『私だけ全部忘れちゃうじゃん? それだったらまたユキくんとはじめましてってしたいから』

 そう笑ったキミは夜空のお姫様のようだった。思わず写真を撮った。

 その写真はキミが持ってる。

 キミは忘れるたびに同じ事を言う。

 花畑で、遊園地で、こっそりと忍び込んだ学校で、忘れる事の出来ない思い出。

 でもそんなキミはもう居ない。だから僕は、キミは亡くなったって言うんだ。

 キミにはいろいろ教わった。

『夕方の灯火』

 そうキミが言った事をそのまま言ったら、キミは複雑な顔をした。

 泣いてるような、笑ってるような、びっくりしたような……。

 公園が見えてきた。ベンチにはキミが座っている。

 僕は微笑む。

 キミは公園の景色を眺めている。

 まるで初めてこの景色を見るかのように。

 僕はキミにもらったリュックを背負いなおして、一歩を踏み出す。

 またここから始まる『はじめまして』のために。

「……こんにちは」

 僕は笑う。

 ……はじめまして、ユリちゃん。

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私が忘れても 霜石アラン @aran001

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