五章 砂のように

 暗い所にいた。何もかも飲み込みそうな闇の中。なんで私はここにいるんだろう。

 フッと目の前にハートの形をした砂の塊が現れる。

「あっ……」

 頭に浮かんでくる様々な思い出。ここには来たことがある。……地獄とも天国とも言えるこの場所に。

 そして、何が起こるか。……わかってしまった。

 なんの前触れもなく、ハートの砂の塊が端から崩れていく。

「あ……ああ!!」

 慌てて崩れていく砂をかき集める。だが、砂は指の隙間からこぼれていく。

「やめて……やめてよ」

 私は祈る。失いたくなかった。母の笑顔。父の温かい手。兄の話。そして……。

「――あ……れ?」

 思い出せない。あの人のこと。大切で、あんなにも好きだった人のこと。

 砂の塊は完全に崩れて、闇に砂が飲み込まれる。

 砂と一緒に記憶が消えていく。

「嫌、嫌だ。なんで?なんでなの……?」

 消えないで。怖いよ。怖いよ。誰か……!!

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