【一章】方思わないデート12

コウヘーのいる席のオーダーが揃ったので、

注文を届けにいく。


「お待たせいたしました。ご注文の商品でございます」


商品を並べると同時に悟られないように、小声で伝える。


『コウヘーの後ろの席、奥から二番目に怪しい人がいる気をつけて』


『奥から二番目だな。教えてくれてありがとな』


『気をつけてね。同い年くらいの女子みたいだしストーカーどうかは、わからないけど』


『同い年、ね…。うん、まさかな。…ないと思いたい』


コウヘーは何か思うところがあるらしい。


『心当たりがあるの?』


『いや、なんでもない』


「お二人はなにをお話しているのですか?」


しまった!サクラコに不審がられた。

ここは白を切っておかないと。


「サクラコとのデートを邪魔しちゃってごめんねって話してたの!」


「もう、柚葉さんはからかいやさんですね。そんな柚葉さんに仕返しです!」


パシャリ


「あーサクラコ撮らないでよぉ〜」


「それからこうしてこうです!・・・えいっ!」


ピロン


スマホに通知が来たみたいだ。

上原さんからのメッセ。


「幸平さんに送りました!他の方にも送っちゃいますよ!」


「待って!それ以上はやめて〜。悪かったから!コウヘーも消してよ!」


絶対いやだ。

頷くだけしておいて、バッチリ保存しておいた。

バックアップも済んである。余念はない。


「そうだ、ユズハ。今更だけどその服似合ってるじゃん」


そうだ。いうべきことはきちんと伝えておくべきだろう。


「え、何よ急に」


「そうですよ!柚葉さん!とってもお似合いです」


「やめてよぉ。サクラコまで…、似合う?」


「おう。そういう落ち着いた服とか、もっと着てもいいと思うくらいだ」


やはり似合う。昔のユズハは清楚な服をよく着ていた。

その印象が強く残っているからこそ着こなせているのかもしれない。

僕としてはそのほうが好みではある。


「そ、そう。まあコウヘーに褒められてもねぇ」


ユズハが冗談交じりに鼻で笑う。

ほう。なるほどそっちがその気なら。


「やっぱさっきの写真ばらまいておくか」


「ごめんてっば!冗談冗談...。じゃあアタシ仕事に戻るから、二人ともごゆっくり~」


あいかわらずマイペースなやつだ。

さてデートも終盤だし、ここは上原さんとの親睦を深めておくとしよう。

僕らは小一時間ほどカフェでくつろぐのであった。




やっぱり付き合ってるのかなぁ、あの二人?

知り合ってから1ヶ月は経っている。

そういう甘い関係に発展しててもおかしくはない。

でも、コウヘーがサクラコと付き合うこと自体に実感が持てない。


「なぁ、上条。さっきのお客さんは、知り合いか?」


仕事場に戻ったアタシは店長に声をかけられた。


「そうです店長。同じクラスの友達です」


「ほう。二人は付き合ってるのかねぇ?あんなに仲良さそうにして、おアツいことだねぇ」


二人の席を眺めているとたしかに楽しそうに話している。


なんだろう。もやもやする...。

友だちが仲良くしているだけ。

それだけなのに心のどこかに引っ掛かっている。

この感情はいったい?


「そういや、上条がさっき案内した女性客。ずっと友達の席をみてるんだよな」


どうやら店長も異変に気が付いているみたい。


「どうしますか?声かけておきます?」


「いやいい。違った場合、失礼に当たるだろうからな。怪しい動きを見せたら対応しよう」


「わかりました」


店長のいうとおりだけど、事後では意味がない。

こっちでもきちんと見ておかないと。


しかし、さっきのお客はすっと立ち上がり。

会計の方に近づいてきた。

アタシはレジで待機する。


それから、なにごともなく会計を済ませて店を後にした。


「どうやら、ただの客だったみたいだな。さて、仕込みするから手伝ってくれ」


「…はい」


ただのお客だったの?

それにまだ違和感が残っている。

不安は消えないまま、アタシは仕事に取り組むのだった。

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片思わない平くん 綴ル @tudulu

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