【一章】方思わないデート11
・・・沈黙が続いていた。
上原さんがさっきから顔を上げようとしない。
きっとユズハのデート発言が尾を引いているのだろう。
彼女から見れば確かに今日はただ友だちと一緒にお出かけした日。
軽い気持ちだったのかもしれない。
その点、僕はデート気分で浮かれて連れまわしていただけ。
勢いで手を握ったり、顔についた生クリームを取ったりと、過剰な行動をしていたと改めて振り返る。
もう少し自制というか。
落ち着きと節度をもって接するべきだったか?
上原さんがどんな男性が好みか知らないのに、僕が思うがままに行動したアレやコレがデートシーンと重なってしまって、
軽蔑しているのかもしれない。
ここは、とりあえずやることは一つ。
「ごめんね。上原さん」
謝る一択。
これ以上マイナスな行動は避けよう。
嫌われてしまうのは、これからの学校生活に支障が出るし、これからも仲良くしていたいからだ。
ここは何を言われても謝っておかなければ。
「え?どうして謝るのですか?」
「…今日一日。上原さんに迷惑かけてしまったかもしれないから」
「迷惑なんて思っていません!私こそいろいろ差し出がましい部分があったなと反省しています!こちらこそ、ごめんなさい」
優しい上原さんはこんなときでも庇ってくれるんだな。
だけど、その優しさがとてもつらい。
「上原さんは悪くないよ。僕が色々振り回したせいで、上原さんにきっと無理をさせたかもって思ったんだ。だからごめん」
「ち、違いますから!幸平さんとお出かけしたのは、すごい楽しかったですし。私自身が満足しています。ただ、その。
柚葉さんに、で...デートといわれて、考えてみるとそうだったなって…。
幸平さんにみっともないところを見せたことを恥じていたんです」
・・・ということは僕は勘違いしていたのだろうか?
それに、僕に見られて恥ずかしいと思っていたとか。
「それじゃ、さっきまで俯いていたのって?」
「幸平さんの顔を...、見るのが恥ずかしくなったんです!デート相手と考えたら意識してしまうではないですか!」
な、ん、だ、と!?僕にテレてたって!?
ということはこれまでの好感度上げは無駄ではなかったってことか!
これは、いけるんじゃないか?
恋人への昇格というゴールに!!!
お、さっきまで漂っていた心のモヤがなくなった。
どうやら僕の心は、ものすごい単純らしい。
幸平たちがしばらく沈黙していた間の事。
アタシは仕事に戻り、次のお客様の来店に備えていた。
それにしても、友だちが仕事場に来るのはなかなか気まずい。しかもデートにくるとか。
コウヘーは一体何を考えてるんだろう。
サクラコに変なことしてないといいけど。
いつもと違う格好だったの変じゃなかったよね?
でも仕事服だから無理もないし、
感想くらい言ってくれてもよかったと思うんだけどなぁ。
何考えてるんだろう、アタシ。
カランカラン
お客様がきたみたい。
いつも通り、気を引き締めて接客しよう。
「いらっしゃいませ…?おひとり様でよろしいですか?」
「は、はい」
茶髪のポニーテールが映える。
眼鏡をかけた女の子。
あたしと同い年くらいにみえる。
あれ?この子どっかで見たことあるよなぁ...。
だれだっけ?まぁいっか。
「…席へご案内いたしますので、中へどうぞ」
案内していると彼女は店内を見渡すように、
さっきからジロジロとみている。
怪しい人だなぁ…まさか。
コウヘーの言ってたストーカーってこの人なんじゃ?一応、コウヘーたちのいる席から離しておこう。
「あ、あの。あそこの空いてる窓際の席がいいのですが」
さっきまでキョロキョロみていたと思えば、
席の指定を希望してきた。
あの席はコウヘーたちの場所から離れたところ…。ただ食事にきただけ?怪しいけど、とりあえず案内するしかないよね。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
「あ、この“アイスミルクティー”を一つ、砂糖ガムシロありでお願いします」
「…かしこまりました。ご用意しますので少々お待ちください」
なんてことない、普通のお客様。
だけど何か違和感がある。
正体はわからない。でも怪しい…。
万が一があるからコウヘーにも伝えておこう。
なんで少し嬉しいの?
アタシは自分の感情に違和感を抱きながら、仕事へ戻った。
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