【一章】方思わないデート⑩

僕らが入ったのは、チェーン店として有名なYカフェ。

馴染みがあるおかげか、ここは第二の故郷だと思っている。

1年生の時はさんざん世話になったけな。

そういえば事故にあったきり行けてなかった。

今度、また寄っていこう。


「いらっしゃいませ、何名様ですか…ってコウヘーじゃん!なんでここに?」


その聞き覚えのある声で明るいお出迎えをしてくれたのは。


「ユズハか!?お前こそなんでここにいるんだよ、もしかして尾けてたのか?」


「そんな訳ないでしょ。アタシのバイト先がここだからよ」


スタッフの格好したユズハ。

制服のギャル姿のような派手さはなく、落ち着いたカフェの雰囲気を壊さないようにするための正装をしている。

普通に似合ってる。もっとこういう服を着てもいいと思うけどなぁ。


「こんにちは、柚葉さん。ここでバイトされてたんですね」


「サクラコもいるじゃん!まさかとは思うけど二人でデート?」


「で、でーと?ですか?幸平さんとは…その、そういう関係じゃ…っ。そう見えますか?」


慌てていながら照れてるような恥ずかしいような判断に迷う様子だ。

どうやらデートとは思われていないのは残念でならないが、余計な期待をしなかったことがメンタルダメージを軽減してくれたようだ。

あれ?痛いな。胸がもやもやする。

・・・どうやらかなり重症みたいだ。


「みえるみえる。普段着の男女が出かけてる時点で、デートでしょ」


「そ、そうですよね~」


チラッと上原さんに見られた気がしたのはきっと気のせいだろう。

僕は君の何気ない言葉が棘となって突き刺さったままのだよ。

あぁ、なんていうことだろうか。帰ったら傷心したところを手当てしないと。

きっと手遅れになってしまう。


「まあ立ち話もなんだしさ、二人とも案内するよ」


ユズハの案内で窓際の席へ移動した僕らは安住の地を見つけたように、どっしりと座る。

はぁ、親父がソファで腰かけて息を漏らしたくなる気持ちがわかった気がする。


「二人ともお疲れみたいだね。はい。セルフの水とおしぼり」


「あぁ、サンキュー。すぐそこのイベントブースに行ってたんだ」


「あそこ混んでたでしょ。よく中に入れたね」


「まあな。バッチリ買うもの買えたから、結果オーライってところかな。ねぇ、上原さん?」


「...は、はい!そうですね!幸平さんにプレゼントをいただいたんですよ」


「ふ~ん。やっぱりデートじゃん。サクラコ」


「だから...その。お、おでかけですってば!からかわないでくださいよー」


ハハハと女子会のノリで話している二人をよそに。

僕はなんだか置いてけぼりを食らっている。

そこまで否定しなくてもいいのに。


「じゃあ、注文が決まったらそこのボタン押して呼んでね。それじゃごゆっくり~」


「あ、待ってくれユズハ。少しだけ話がある」


「え?なに?」


僕はストーカーの件をユズハに話しておくべきだと思った。

彼女ならきっとうまく立ち回ってくれるだろう。

ユズハに近くに寄るように手招きして。

耳元に近づき。


『実は僕らは誰かにストーキングされている。もしかしたら、上原さんを狙った人かもしれないから、もし店内に入ってきたらうまく対応しておいてほしい』


『そんなこと言われても、わからないよ。そんな曖昧な情報だけだと...、何か特徴はないの?』


『メガネはかけていたように思う。ただそれだけ、たぶん店内に入ったときに僕らの位置を確認して不審な行動をするはずだから。それで上手くやり過ごせるようにしてほしい』


『・・・まあ、なんとなくわかった。でも、アタシは仕事もあるからカバーはそんなにできないよ』


『大丈夫。ある程度目星がついたら何かしら僕らにわかるように教えてくれればいいから』


『わかった。まあ、うまくやっておくから』「それじゃあ、二人ともゆっくりしていってね」


さあ、ユズハにも協力を得たし。何とかなるだろう。

ストーカーに、最後のところで邪魔されるわけにはいかないのだ。

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