【一章】方思わないデート⑨
ゼエゼエはあはあ。
なんとか、いい感じのキーホルダーを買うことができた僕は。
少し離れたところにあるソファに腰を下ろして、上原さんの帰りを待つ。
改めて『にゃにゃ吉』のイベントの恐ろしさを痛感した。
これは覚えておくとしよう。
「お、お待たせしました〜…、すみません付き合わせてしまって」
全身疲れ切っている上原さん。
きっと熾烈な争いを勝ち抜いてきたのだろう。
「ぜんぜん気にしないで、買いたいものが買えたなら何よりさ」
あくまで余裕であることを見せなくては。
自分の姿勢一つが、彼女に影響があると思わないと。
「じ、じつはですね…本当に買いたかったものは売り切れだったのです。代わりに、こちらのキーホルダーにしました」
『にゃにゃ吉』というキャラがサムライの格好をしている。それぞれ姿形が違うらしい。
落ち込んでいる上原さん。
あの人混みではお目当てのものがないのは仕方ないとは思いつつも、なんとかしてあげたい。
「ちなみに何が欲しかったの?」
「限定版の『にゃにゃ吉』キーホルダーです。甲冑が金色と黒色をしていて、『大将』って言われてるんですよ。でもなかったので残念です…」
そういえば…。
僕は購入したグッズをみやる。
すると、そこには上原さんのお目当てと合致するキーホルダーがあった。
たしかにキーホルダーの中で目立つなと人混みを掻き分けむりやり手に入れたんだった。
まさか欲しがっていたものをすでに買っていたのは運がいい。
「上原さん。これよかったら貰ってくれないかな?」
僕は紙包されたグッズを手渡しする。
「えっ?これは幸平さんが買ったものではないのですか?」
「いや。助けてもらったお礼をしたくてさ。これは僕からのプレゼント。開けてみて」
「えっ!限定キーホルダー!?幸平さん買っていたのですか?ほかにもペンが入ってる…こんなにいただけませんよ!」
申し訳ないのか、受け取ることに躊躇いがあるみたいだ。
だが、その問題は杞憂である。
「僕からの気持ちなんだ。どうか受け取ってくれたら嬉しい」
僕は笑顔を取り繕い。
不審さを見せないように振る舞う。
「そ、そこまで言うのならありがたく使わせていただきます。そうだ!私のキーホルダーを幸平さんにプレゼントしますね!」
なんと、僕にさっきのサムライキーホルダーをくれるみたい。
嬉しいけど、ここで喜ぶのははしたない可能性が高い。
ここは、グッと堪えるのだ。
「えっ!でもプレゼントの意味が…」
「今日のお礼ってことで貰ってください。それともキーホルダーはイヤでしたか?」
「そんなわけないよ。ありがとう、じゃあ貰うね」
うっほーい!!!
上原さんからプレゼント貰ったぜ!
ヒャッハー!!!
じゃない!落ち着け幸平。
昂る気持ちはあとで帰ってからのお楽しみってことで。
今は嬉しさを噛み締めようではないか。
「この後はどうしましょうか。少し疲れましたね」
「なら、あのカフェに入ろう。少し休んで英気を養おうか」
戦いの後には休息は不可欠。
さっそく、カフェで一息つくことにした。
幸平たちの後を尾け続けている一人はというと。
その様子をただ見つめていた。
『うそ、なんであんなにくっついてるの?もしかしてホントに付き合ってるとか…、ありえないから!幸平が学園のマドンナと付き合ってるとかなんの冗談よ?
そう!これはきっと幸平が脅したか、土下座をして仕方なくデートしてるに違いない。
きっとそう!』
ありえないことを目にしている、茶髪でポニテを揺らす尾行人は後を追うように幸平たちのいるカフェに入った。
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