ふやける季節

由比

ふやける季節


日を跨ぎブランコ 団地 魂がふらついていて鉄になりたい


ぼくの信仰心早産だったからうまく飲めない甘白い水


山々に脈打つ雲はやわき白 針葉樹林を包み隠して


経験は傷 金継ぎは美しく音立て散った記憶守って


隙間から細く光るは鉄道草しめった私からかうように


東京の夜いつまでも薄明かり ごめん冒涜するね等星


火口河口ゆうべチューハイぶら下げて公園に漕ぐ欲張りな風


終バスにくだらない約束をしてしおらしいまま過ごせますよう


脱ぎ捨てた靴下揃え不文律 ベランダのため買った鉢植え


温帯に溶け出す中身他者自分イエスとノーは背中合わせか


メンソール トラブルシューティングさせてよ 届けたい息ぬるく濁って


露天風呂ふやけて浮かぶ細い傷さびしさよろしく誰に会いたい


かあさんの喜劇のような叱り声うれしくて 近いうちに帰るよ


選ぶための力は無くて待っているシャットダウンで今日はさよなら


つぎはぎの友 綿にぎり返されて無償の心隣で眠る


天国のバー「急行」のカクテルを火つけて返す噴水になれ


山の音をふんだんに詰め丸々と青果豊かにアーチを描く


雲つたう雷浴びて思い出す隣の町ではじける花火


そよ風のごと一曲目名乗らずに裂いた空気を縫うファルセット


梅雨抜けて吸い込む月夜 向こうまで見渡す淀みない夏の影



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