コールセンター

白川津 中々

 リーダーが休憩に入り肩の力を抜いた途端に入電があった。



「西電力株式会社カスタマーサポートセンターです」


「すみませーん。電気がつかないんですけどー」


「かしこまりました。状況をお調べいたしますので、お名前と生年月日をお願いします」


「キムラチョウコ。1988年10月21日生まれです」


「はい。キムラチョウコ様ですね。お名前の漢字を教えていただけますでしょうか」


「キムラは普通に木村で、チョウは蝶々の蝶。子は子供の子です」


「はい。少々お待ちください……確認が取れました。電気代が未納となっております。払込用紙をお送りしておりますので、お支払いいただければご利用できます」


「あぁ、そっかー。そういえば払ってなかったかもーありがとうお兄さん」


「とんでもない事でございます。他にお困りはございますか?」


「お困り……あぁ、今日ついた客がマジ最悪だったんだよねー。胸とか触ってきたりさー。でもノルマでLINE交換しなきゃいけないしさー。やだなー連絡とるのー。ねーどう思うー?」


「……」


「お兄さん、聞いてる?」


「あ、はい。聞こえております」


「よかったー。いやーホント、夜の商売って最悪だよねー。客はクソだし店もクソだし……」



 愚痴を楽しそうに始める木村蝶子。本来であれば電話を切るよう誘導するのだが、しかし、夜の空気が俺の唇と舌を動かした。



「木村様はどうしてそんな仕事に就いているんですか」


「……それ聞いちゃう?」


「あ、申し訳ございません……」



 我に返る。クレームとなり、通話ログを聞かれたらどうしようかと青ざめた。しかし、木村蝶子は気にする様子もなく、俺の質問に答えたのだった。



「あ、いいのいいの! 別に大した理由じゃないから! あのね、私、整形したいの。凄く綺麗になって、それでYouTubeとかで有名になりたいんだ。そうしたら人生楽しそうじゃない?」


「……」


「お兄さん?」


「あ、申し訳ございません。そうですね。そう思います」


「でしょう!? まずねー瞼を弄って……」




 木村蝶子の話は続いていたが、俺の耳に入ってこなかった。

 俺は彼女の不幸な身の上を聞きたかった。恋人に騙されたとか、家が貧乏とか、そういったありきたりな不幸が語られるだろうと勝手に想像し、そうでないと分かって失望していた。俺は彼女が不幸で、不幸故に夜の仕事をしていてほしいと願っていた。そうに違いないと、そうでなくてはならないと……




「それでさぁ聞いて……」



 接続が切れた。電波が不通となったのか、それともスマートフォン料金も滞納していたのか定かではない。それから入電はなかった。執務室は、キーボードを叩く音しか聞こえない。


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コールセンター 白川津 中々 @taka1212384

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