コールセンター
白川津 中々
■
リーダーが休憩に入り肩の力を抜いた途端に入電があった。
「西電力株式会社カスタマーサポートセンターです」
「すみませーん。電気がつかないんですけどー」
「かしこまりました。状況をお調べいたしますので、お名前と生年月日をお願いします」
「キムラチョウコ。1988年10月21日生まれです」
「はい。キムラチョウコ様ですね。お名前の漢字を教えていただけますでしょうか」
「キムラは普通に木村で、チョウは蝶々の蝶。子は子供の子です」
「はい。少々お待ちください……確認が取れました。電気代が未納となっております。払込用紙をお送りしておりますので、お支払いいただければご利用できます」
「あぁ、そっかー。そういえば払ってなかったかもーありがとうお兄さん」
「とんでもない事でございます。他にお困りはございますか?」
「お困り……あぁ、今日ついた客がマジ最悪だったんだよねー。胸とか触ってきたりさー。でもノルマでLINE交換しなきゃいけないしさー。やだなー連絡とるのー。ねーどう思うー?」
「……」
「お兄さん、聞いてる?」
「あ、はい。聞こえております」
「よかったー。いやーホント、夜の商売って最悪だよねー。客はクソだし店もクソだし……」
愚痴を楽しそうに始める木村蝶子。本来であれば電話を切るよう誘導するのだが、しかし、夜の空気が俺の唇と舌を動かした。
「木村様はどうしてそんな仕事に就いているんですか」
「……それ聞いちゃう?」
「あ、申し訳ございません……」
我に返る。クレームとなり、通話ログを聞かれたらどうしようかと青ざめた。しかし、木村蝶子は気にする様子もなく、俺の質問に答えたのだった。
「あ、いいのいいの! 別に大した理由じゃないから! あのね、私、整形したいの。凄く綺麗になって、それでYouTubeとかで有名になりたいんだ。そうしたら人生楽しそうじゃない?」
「……」
「お兄さん?」
「あ、申し訳ございません。そうですね。そう思います」
「でしょう!? まずねー瞼を弄って……」
木村蝶子の話は続いていたが、俺の耳に入ってこなかった。
俺は彼女の不幸な身の上を聞きたかった。恋人に騙されたとか、家が貧乏とか、そういったありきたりな不幸が語られるだろうと勝手に想像し、そうでないと分かって失望していた。俺は彼女が不幸で、不幸故に夜の仕事をしていてほしいと願っていた。そうに違いないと、そうでなくてはならないと……
「それでさぁ聞いて……」
接続が切れた。電波が不通となったのか、それともスマートフォン料金も滞納していたのか定かではない。それから入電はなかった。執務室は、キーボードを叩く音しか聞こえない。
コールセンター 白川津 中々 @taka1212384
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