「おっ。占い8位がいる」


 そうです。8位。ラッキーアイテムは唐揚げ。

 後ろ。彼が来た。


「あなた何位なのよ」


 知ってる。2位。ラッキーアイテムはアクセサリー。


「おまえよりも下だよ」


 うそつき。彼は、こういう、うそをつく。わたしが、知っているのにたずねているときとか。分かった上での、あえての、嘘。しかも、わたしに微有利な嘘。


「傷はもういいの?」


「まだまだだよ。手が繋がったことが奇跡だね」


「動かせる?」


「すぐには無理だな。数年かけてリハビリかも」


 彼の無事を、わたしが願った。でも、彼は傷だらけでここにいる。わたしの願いは叶っていない。


「願いが叶わなかったって顔してるな?」


「そりゃあ、まぁ」


 あなたの願いが叶ったのね。わたしの、日々の小さな幸せ。それが、彼の唯一の願い。


「わたしの、日々の小さな幸せ、か」


 彼の心臓は、あのとき、止まった。血を失いすぎていた。それでも、今。彼は、ここにいる。


「おまえの日々の幸せに、俺が必須だったわけだ」


 止まった心臓は再び動き、彼の手もなんとか繋がり、そして今、わたしのとなりに彼がいる。


「手。わたしの上着が来るまでに治して」


「これまた無理なことをおっしゃる」


「おなかすいたから。ごはんたべたいから。手。治して」


「そんなことだと思ったよ。ほら」


 お弁当。なぜ。


「片手でも作れるものは作れるんだなこれが」


 ちょっとすごいかも。お弁当を開いてみる。唐揚げ。たくさん入っていた。本日のラッキーアイテム。


「優秀な彼氏だね」


「まぁあなたの彼氏ですから」


 いただきます。

 おいしい。


「ねぇ」


 彼。さっそく、手のリハビリを始めている。握って、開いて。また握って。


「わたしでいいの?」


 彼。手の動きがいったん止まる。


「どういう意味?」


「そのままの意味」


 手のリハビリ。再開。


「いや、わからん」


「わたし。若くないよ」


 そのままの意味。


「見た目はおれより若く見えるけど」


「真面目に」


「真面目に?」


 手のリハビリ。また止まる。


「真面目に、か。歳をとると、正直さがなくなるんだな」


 うっ。それはわたしに刺さる。


「おれは若い。だから、それをカバーできるようにしている。そのお弁当とか、この手とか」


 あっ。やばい。彼おこってる。なんとなく、分かるようになってしまった。彼は、おこると、静かに、懇切丁寧に喋る。


「ごめんなさい」


 早めに謝る。


「ゆるさぬ」


 まじか。


「正直に、ちゃんと言いなさい。若い男にさとされてどうするよ」


 それはそうです。その通りです。

 自分に、正直に。

 そんな生き方が、わたしにあっただろうか。何もない、ただ生きてそのまましんでいく、わたしの人生のなかで。そんな普通の、幸せな日々が。


 いや。


「あなたとなるべく一緒にいたいと思っています」


 これが、いまの。


「わたしは若くないです。正直でもなかったです。でも、なるべく素直でいようと思います。だから」


 わたしの、願い。


「わたしと一緒に、いてくれますか。あなたを、わたしの日々の幸せにしたい、です」


「よく言えました」


 彼。リハビリしていた手を、ポッケに突っ込んで。


「できますね?」


 L43a。


「うそ」


「まだ何もお願いしていません。おれは自力でここにいます」


 うそでしょ。


「さぁ。おれはあなたの願いを受け入れます。おっけーです。さぁ、L43aに同じことをお願いしなさい」


「やだ」


「なるべく素直がなんだっけか」


 やばい。追いつめられた。


 彼の、手。ぎこちなく、ビー玉を渡してくる。


 L43a。願いの叶うビー玉。

 握って、目を閉じて。願った。

 わたしと、彼の日々を。その、小さな、幸せを。


「あっ」


 L43a。手のなかで、割れた。そして、2つになって。


「あはは。願いが叶うって、概念じゃなくて物理なんだな」


 わたしの手のひらの上で。

 ビー玉は、ふたつの指環になった。小さい。


「大きな幸せだったら、ダイヤモンドついたのかな」


「さっそく欲張るなよ。普通がいちばんなんだよこういうのは」


「そっか」


 彼がとなりにいる。それがわたしの、日々の小さな幸せになる。それでよかった。それでいい。願いは叶う。


 彼が、指環を眺めている。


「これもアクセサリーに該当するんかな?」


 やっぱり2位じゃん。そうだよ。あなたの今日の、そしてこれからの日々の、ラッキーアイテムだよ。

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L43a 春嵐 @aiot3110

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