燃やされ魔女通信

椿木るり

ハロー

 ハロー ハロー 聞こえますか?

 あ、聞こえてる? 良かった

 どうも、先ほど燃やされた魔女です

 いやまぁ私もこういう死に方かなぁとは思ってましたし、いいっちゃいいんですよ

 これから皆さんを呪うことも出来るんですけどね?

 でもあんまり物騒なことはしたくないから素直にお願い聞いてくれると嬉しいなぁって

 で、お願いって言うのは西のはずれにぼろっちい家があるんですけど、そこにいるボローニャという名の女の子を助けてください

 父親にひどい暴力を受けていてボロボロのボローニャって感じなので安全な環境と栄養のある食事と仕立ての良い服

 それから最高の教育を

 もちろんお金は国で出してくださいね

 わたしのお願い、叶えてくださいますか?

 うーん

 そうね、一年にぴったり千人死ぬ呪いとかどうかしら

 こんなちっちゃい国で千人も死んだらあっという間に滅びるでしょうね

 あら、ありがとうございます

 約束ですよ

 あ、あとこの焼け跡に銅像も建ててください

 別に慰霊とかしてもらわなくていいんですけど皆さんが約束を忘れないように

 よろしくお願いしますね

 それではグッバイ

 いつまでも見守っておりますわ





 曇天の空から降る鈍色の光が私の魔女を包んでいる。あの火炙りの日は曇天だった。だからこんな日は人通りが少なく、私は思う存分、私の魔女を見つめることが出来る。でも今日はあまり時間が無い。

 国から保護されて十年。

 私の魔女が火炙りにされてから十年。


「これから街を出るよ。東の国の大学に行くの」


 卒業しても戻って来るかは分からない。戻ってこなかったとしてもきっと怒らない。そっと目を閉じると「あんたボロボロね」と笑い飛ばしてくれた愛する魔女の笑顔が浮かんだ。


「着いて来てくれたら嬉しいな。なんて……」


 あんまりここにいたら泣いてしまいそう。私はもうボロボロのボローニャじゃないんだから、そんな姿見せたくない。


「さよなら」


 ハロー ハロー 聞こえますか?

 

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