せめてあなたが、あたしを産んで
稲荷竜
◯
「せめてあなたが、あたしを産んで。それぐらいしか希望がないし」
キラキラと輝く海が遠くに見える真っ白いサナトリウムには『面会室』があった。
ここは『転生病』の患者が集められている場所だ。
『転生病』
3年以内の致死率、100%。
死亡後5年以内の転生率、100%。
記憶を引き継いで生まれ変わる確率、100%。
……ほぼ、100%。
「
転生は罰だ。
人々は転生しないように願って徳の高い行動をするようになった。
この病気がなかった時代に比べたら、きっと社会は少しだけよくなってるんだと思う。
前世を覚えて生まれてきた赤ん坊を『気持ち悪い』と言って捨てる人はずいぶん長くニュースになっていないし、今までとまったく違う人生を歩まされている子供が心を病んで死ぬことはなくなった。
代わりに20年連続で出生率は落ち続けているらしい。赤ん坊が生まれない社会なら、そもそも転生先がないのだから安心だなんていう発言も、よく見るようになっていた。
私たちは生まれる先を選べない。
親たちは生まれてくる子供を選べない。
いつかこの世が転生者まみれになって、それが普通になれば出生率も上がると言われているらしい。
私たちが生きている社会のことについての話なのだけれど、私にはどうしても、自分と関係のある情報には思えなかった。
彼女が転生病にかかってから一生懸命調べたこれらのことは、何一つ私たちの心に寄り添ってくれなかったから。
『せめてあなたが、あたしを産んで』
私たちにはこれぐらいしか救いがなかった。
それでも私は、彼女を救えない。
「ごめん、約束できない。私はあなたに嘘をつきたくないから」
分厚いガラスの向こう、空気穴越しに見える彼女の顔がころころと変わった。
短い時間で、おどろいたり、悲しんだり、寂しそうにしたり、ムッとしたり……
ころころ変わるあなたの顔が、きっと、好きだったんだと思う。
最後に彼女は笑って、言った。
「そこは『わかった』でいいんだよ、委員長」
もっと優しい言葉を言えたらよかったのに。
楽しい時に笑えたり、悲しい時に泣き叫べたりしたらよかったのに。
みんなが嘘みたいに笑うこの社会で、私は笑うのがうまくなかった。
真面目だけが取り柄だった。それはもう『何も取り柄がない』と同じ意味だった。
自分に何もないことを、自分が一番よくわかっていた。積極性もない。特技もない。真面目だって言われるけれど、ただものぐさで、人とのかかわりを避けて、いつでもムッとしていただけの、つまらない私。
だから彼女のことが大嫌いで。
……きっと、たぶん、大好きだった。
ここは死病のサナトリウム。
海を臨む真っ白い建物。
たくさんのキラキラを塗りたくられた優しい監獄の中で、彼女はこれから眠るように死んでいく。
死の際の記憶さえも引き継いで生まれる転生病患者は、最期に苦しみを感じないように投薬によって殺される。
それが『善いこと』だとされている。
苦しまない死。眠るような死。それを与える社会。
そうやって人のためになるようなことをすれば、徳を積むことができて、二度と生まれ変わらないようになることができると信じられていた。
「ばいばい、委員長」
面会室の分厚いガラスの向こう側で、彼女が粗末なパイプ椅子から立ち上がった。
『急な病状の変化に対応するための看護師』がぎしりと椅子から立ち上がって、病棟につながる入り口へ向かう彼女をエスコートしていく。
ねぇ、彼女は病人なんでしょ。
なのになんで、私たちのあいだにはこんなガラスがはまっているの?
……浮かんだいやみはすぐに消えた。
看護師だって職員にしかすぎない。転生病患者をこうやって管理するのは国が決めたことだから、あの人に言ったって、困らせるだけだろう。
徳を積みたいわけじゃないけど、人を困らせることはしたくない。
ここで彼女は『転生後にすべきこと』を教えられて、それが終わったら薬で眠るように死んでいく。
去っていく背中はずいぶん細くなっていた。
髪の毛はまっすぐになっていて、爪にはなんの飾りもなくって、上下そろいの真っ白い軽そうな布でできた服を着て、白い建物の中に消えていく。
まるで別人みたいだった。私と出会った時の彼女は、もっと派手で、元気いっぱいで、それから……
立ち上がった。
ガラスに手をついた。
彼女が振り返った。
私は、
「…………」
私は、何も言えなかった。
彼女に嘘をつきたくない。
優しい嘘さえ、つくことができない。
親は子を選べないし、子は親を選べない。
私は彼女を産むことを選べないし、彼女は生まれる先を選べない。
ぜんぶぜんぶ、神様の思し召し。
彼女が去っていく。
私は……
最後まで、何も言えなかった。
△
「ねぇ、あんた、あたしのことバカにしてるっしょ」
彼女はそういうふうにからんでくると評判の問題児で、クラス委員長なんていう役目を任されてしまった私にとって、頭痛のタネだった。
笑顔を貼り付けた人たちが穏やかで慈愛に満ちた暮らしをする現代。彼らは取り柄のない人に取り柄を見出して役割を任せることを美徳としていたから、真面目以外に取り柄のない私に『クラス委員長』なんていう重積を課してくれた。
一方で、彼らは優しく穏やかで静かな暮らし以外はできない人たちだったから、クラスの平穏を乱す彼女のことをどうにかしてほしいと、クラス委員長である私に要求するばかりだった。
私は、余計な仕事を増やされるのが大嫌いだ。
教室の端っこで誰ともかかわらずに本でも読んでいられたらそれでよかったのに、余計なことをされて委員長なんかに祭り上げられたあげく、『それは、あなたの仕事でしょう』とばかりにクラスの問題児の世話を押し付けられる。
この現状と、この現状を作り上げたくせに責任をとらないクラスメイトと、いかにも『自分たちはいいことをしていますよ』みたいな顔をして責任のなすりつけあいをする社会が大嫌いだった。
でもとりあえず直近で一番嫌いなのはクラスの和を乱す問題児だ。
そいつは髪を金色に染めて、ウェーブをかけて、爪を派手な色にして、制服をひどく着崩していた。
スカートなんかありえないほど短かったし、言葉遣いも乱暴で、しかも、いつでも誰かにケンカを売っていた。
こんなやつの説得をしなければならない。
かかわりたくなかった。どこか遠い場所で好きにしててほしかった。私に関係しないで。うざったいから。
それでも私は『世間』が怖いから、課せられた役割をこなすしかなかった。
孤独を好むくせに孤高ではなくて、すべてを嫌うくせに嫌われるのが怖くて、周囲を見下しながら最初から全面降伏している。それが、私。
今にして思えば、彼女は、私が理想とする生き方をしていて、それがうらやましくて、嫉妬もあったのかも。
だから珍しく……評価をくだらないと思っているくせに評価を気にする私にしては珍しく、彼女には、キレてしまった。
「私のクラスで暴れないで。私の仕事が増えるから」
たしか屋上へ続く階段の踊り場だったと思う。
壁に追い詰めた私の迫力に気圧されたみたいになっていた彼女は、こんなふうに答えた。
「ごめん」
拍子抜けした。
彼女は誰にでも噛み付く人だったから、まさかこんなに素直に謝られるだなんて思ってもみなかった。
……そこから、彼女は私に付きまとうようになった。
クラスメイトも、彼女が私といっしょにいるあいだは大人しいことをわかって、いつの間にか、私は彼女の世話役みたいにされてしまった。
心底、うざったかった。
大嫌いだった。
それが高校1年の春ごろのこと。
彼女が『転生病』になる1年前にあった、私と彼女の出会い。
□
次の春。
相変わらず私は彼女にべたべた付きまとわれていた。
「委員長はさあ、夏とかどうすんの?」
「おばあちゃんち」
「『おばあちゃんち』ってそんな楽しいの?」
「楽しいから行くわけじゃない」
「だったらさ、あたしと楽しいとこ行こうよ」
ため息をついて本に視線を落とす。
拒絶のポーズのつもりでいた。でも、彼女に『拒絶』が通じたことはなかった。
どうしてこんなに付きまとうのか、わからない。ただ、私に付きまとっているあいだ、彼女が誰かにケンカを売ることはなくて、結果として私の仕事は彼女の話を聞き流すだけでよくなっていた。
私たちの付き合いは1年以上も続いていて、きっと傍目からは親友みたいに見えたことだと思う。
それでも私は相変わらず彼女のことが嫌いだった。
ただし、私にとって彼女は共生関係にある生き物ではあった。
彼女がそばにいると、他の人が寄ってこないし、話しかけてもこない。
2年生になっても当たり前みたいにクラス委員に選ばれてしまったのはとても遺憾だけれど、それでもまあ、煩わしい人付き合いを極限まで避けられる代償だと思えば、そう高いコストを支払ってもいないように思えた。
「ね、委員長、今年こそ水着買って海行こうよ」
「やだ」
「海恐怖症の人?」
「……そんな人いるの?」
「いるっしょ。……恐怖症じゃないなら海行こうよ」
「なんで」
「『おばあちゃんち』より楽しいから」
お前が私のおばあちゃんちの何を知ってるというのか。……まあ、確かに、楽しいから行ってるというわけではないんだけれど。
習慣、通例。
私がお盆をふくんだ長い期間を母方の祖母の実家で過ごすのは、それが楽だからだ。
真面目そうとよく言われる私は、確かに真面目以外に取り柄がない。でも、別にそれは、『他にも抜きん出た能力や性質があったうえで真面目が一番取り柄として目立っている』ということじゃなくて、本当に『…………ま、真面目で素敵だと思うよ』ぐらいしか褒めるべきところがない人格、というだけだった。
私が祖母の家に行く理由は『母が行くから』で、どうして母について行くかと言えば、母が実家に戻っている最中に家に残って家事をするのが面倒くさいからだった。
いつの間にか出来上がっていた『人を評価する時は必ず誉めなければならない』みたいな空気のせいで、私みたいに褒めるところのない人物はだいたい『真面目』か『優しい』かで呼ばれているだけだ。
そして私は無愛想でとても『優しそう』ではないから、残った『真面目』を当てはめられていると、そういう話でしかないのだった。
そんな理由で友達とも遊ばずに8月のほとんどを母方の実家で過ごす私が、『海に行く』なんていう面倒ごとを承諾するわけがない。
だから、私が承諾するとしたら、
「ねぇ、行こうよ海」「やだ」「なんで」「面倒だから」「面倒より楽しいって」「やだ」「水着だけ買いに行こう」「無駄」「買い物行くだけでも楽しいって」「そうは思わない」
こんなふうに、しつこくされて、
「あたしは、委員長と行きたいの!」
「……はあ」
断り続けるのが面倒になって。それで、
「……わかった。行くから騒ぐのをやめて」
「やった!」
無邪気にはしゃぐ彼女を見て、心底イライラしながら、私はまた、ため息をついた。
本当に次の休日に買い物に付き合わされて、私たちは水着を選んで……
彼女は、転生病にかかった。
首筋に『転生の印』が現れて、襟のない服を彼女が着ることはなくなってしまった。
×
思い返すだに、私は彼女のことが大嫌いで、そのわがままにずっとずっと振り回されてきた。
何もかもが気に入らない。
彼女のことが気に入らない。私に付きまとって、歯なんか見せて楽しそうに笑って、嫌がる私を着飾ろうとしてきたり、休みの日に連絡をよこしたり。
クラスメイトたちが彼女を私に押し付けて安心しきってるのも気に入らない。自分たちで対応できない問題を人に任せっきりにしてるくせに、貼り付けたような笑顔を浮かべて『徳』とか『善行』とか言いながら、いかにも自分たちはいい人ですみたいな態度でいるのが本当に気に入らない。
私は正直者も嘘つきも嫌いだ。
同じぐらい嫌いで迷惑だと思っている。
でも、本当に一番嫌いなのは。
正直者になることもできず、嘘をつく人たちを見下している、自分自身。
「…………」
今の私の眼前には、夏の日差しにキラキラ輝く海があった。
真っ白いサナトリウムから出れば、そこはあまりにも何もない街と、広大な海。
真夏の陽光にきらめくこの場所。振り返れば美しい白亜の建物。『サナトリウム』というあだ名を持つ施設。
何もかもが嘘だ。
あそこは人を殺すための場所だし、
あれは断頭台とか絞首台だ。白くて綺麗で、静かで素敵で、真夏の日差しにきらめかせて、必死に血まみれである事実を隠そうとしている……
嘘、そのもの。
……面会室で口をついて出た言葉を思い出した。
嘘は嫌い。
正直なのも嫌い。嘘も嫌い。
どちらでもない自分が一番嫌い。
だから、もしも、どっちになりたいかと言われれば……
優しい嘘をつける『うまく生きられる人』よりも。
彼女の好きな、正直者でありたい。
私はサナトリウムに駆け戻った。
高い壁に囲まれた施設の唯一の出入り口には守衛が立っている。
年老いて、ここを最後の就職先に選んだであろう男性は、先ほど出て行ったばかりの私を見つけて「おや」とのんびり声をあげた。
徳を積みたがる人たちにあふれかえった現代、どこか人々はのんびりしている。
社会はきっとよくなった。
薄っぺらな嘘と、貼り付けた笑顔によって、とてもよくなった。
でも、この社会は私たちの心に寄り添ってくれない。
私たちの心には、私たちしか、寄り添えない。
「すいません、忘れ物をしてしまったんです」
私は正直に言った。
守衛のおじいさんは「大変だねぇ、どうぞ」と確認もせずに入れてくれた。
騙してしまったみたいで気が引けたけれど、私には忘れ物が確かにあったのだ。
だからもう一度彼女を呼び戻してもらうことにした。
私たちのあいだに分厚いガラスが立ち塞がる意味はわかっている。
それは『確実に死ぬ親しい人』を連れて逃げ出さないようにするためだ。
でも、彼女たちは犯罪者ではなくて病人だし、感染の心配も、今のところの研究成果では『しなくていい』ということになっている。
だから、ガラス越しの面会は、さっきの今だっていうのに、すぐに叶った。
「どうしたの?」
彼女はおどろいていた。
私は……どういう顔をしていいかわからなくて、怒ったように、言った。
「買い物、行ったよね」
「え、うん」
「約束、果たせない?」
感染症の心配もない病気の彼女と私とのあいだに、分厚いガラスは存在している。
これは転生病という『確実に死んで、次に生まれる国も人種も性別も選べない人』が、『前世』になるべく未練を残さないようにということで、国が定めた措置だ。
それはただの制度で、その制度は私たちの心に寄り添ってはくれない。
どれだけ
私たちの未練を消せるのは、私たちだけ。
でも、国の制度は、私たちの気持ちより強い力で、私たちを引き裂く。
だから、くわしいことは言えなかった。
でも、彼女には通じた。
「……うん」
首筋に浮かんだ不吉な紋様を撫でながら、彼女はうなずく。
後ろには監視のための看護師がいる。だから、はっきりとは言えなかったけれど、彼女は確かに承諾したんだ。
私たちは、海に行くことにした。
買った水着を着て、海で泳ぐことにした。
それはきっと、『おばあちゃんち』よりずっとずっと楽しいはず、だから。
私は彼女に脱走をすすめて、彼女はそれに、うなずいたんだ。
⚪︎
彼女は来なかった。
ただの女の子が、軟禁と監視のために作り上げられたサナトリウムから出ることはできなかった。
♢
『転生病』
3年以内の致死率、100%。
死亡後5年以内の転生率、100%。
記憶を引き継いで生まれ変わる確率、100%。
……ほぼ、100%。
この『ほぼ』は、自分が転生者だと隠している人が存在するせいだ。
子は親を選べない。親も子を選べない。
『徳』を積めば転生をしなくて済むようになるという考え方は、まだ転生病にかかっていない人たちの意識も変えた。でも、それ以上に、転生病にかかって新しく生まれ変わってしまった人たちの意識も変えている。
今生の親のために『普通の子供』のように振る舞う人もわりといるらしい。そのせいで、転生病の『記憶を引き継いで生まれる確率』は、『暗数がある』という状態に留まっており、『ほぼ100%』の域を出ない。
その代わり転生した子かどうかは、前世と同じ位置に印があるからすぐわかる。
これは表立ってはあまり言われないけれど、『烙印』とかなんとか、あまりいい感じの意味ではない呼ばれ方をすることも、わりとあるみたいだ。
あれから7年経った。
私は子供もいないし、恋人もいない。
私は彼女を産めなかった。
恋人がいないのは現代だと珍しいことではない。みんな笑顔を浮かべて『徳』だの『善行』だのと言っても、やっぱり『まったく知らない他人が自分の子として生まれてくるかも』っていう恐怖はあるらしく、出生率はあれからもやっぱり下がり続けている。
それに、きっと、私はずっと一人だと思う。
みんなが笑顔を浮かべる社会で、私は相変わらず笑うことがうまくない。
正直者にもなれないし、嘘つきにもなれない。大嫌いな半端のままの自分として、今の社会で生きている。
あのサナトリウムのある島で彼女と海に行けなかったあの日。
私は、正直者になるタイミングを永遠に逃した。
嘘つきになれたらよかったのに。
そうしたらもっとうまく生きていくことも、できたのかな。
そうして私は半端なまま、ずるずる今まで生きている。
何かに希望を抱いているわけでもなかった。
安心できるのは、この社会に希望を抱いて生きている人は少数派で、多くはなんで生きているかわからないまま、死ぬほどの思い切りもできないからなんとなく生きて、誰かが自分を殺してくれるのをぼんやり待っている人がわりと多そうだということだけだ。
でも、人は人を殺さなくなった。
殺人をすると確実に地獄に行くから。
転生という不思議現象が実在を証明されたことで、地獄だの天国だのもけっこう信じられている。
人々は『善い人』になった。
だからとても息苦しい。
……私は、彼女のことを好きだった。
うざったいと思っていた。大嫌いだと思っていた。面倒だと思っていた。
でも、振り返って、彼女の正直な生き方に憧れていたことも、嫉妬していたことも……
歯を見せて笑う、あの、本当の笑顔も。
大好きだったと、思うばかりだ。
私は正直者になりたかったわけではないのかもしれない。
ただ、嘘が大嫌いな彼女の前で、嘘つきになりたくなかっただけだ。
……どうして、今ごろになって、こんなことに気付かされるんだろう。
どうして、彼女が生きていたころに、気付けなかったんだろう。
私は今日も生きていく。
死ぬほどでもないから、生きている。
希望はなかった。絶望というほどのこともなかった。
ただ相変わらず、生きていくのは面倒だった。
でも、私は海にいる。
あの夏から私は一度も欠かさず、8月の海を砂浜から見ている。
あのサナトリウムのある島ではない。私たちの通っていた高校の近く……といっても、2駅ぐらいあるビーチだ。
私と彼女が最初、行くはずだった海。
私はそこで水着を着て、ただ海を見ながら座っている。
私はずっと正直者になり損ねたまま、こうして生きている。
そして……
この肩を叩いて、私を『委員長』と呼ぶ誰かが来るのを、待っている。
私を正直者にしてくれる誰かを。
せめてあなたが、あたしを産んで 稲荷竜 @Ryu_Inari
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