第9話 チカコの正体

 影山は目を閉じて司に語り始めた。


 あの日、ワテは2歳になるワテの息子と二人でこのプールに遊びに来た。2008年、8月1日やった。今が2023年やから、今から15年前や。

 プールサイドにレジャーシートを引いて座り、ワテと息子はプールを眺めていた。さて、プールに入ろうかと思って立ち上がると一人の監視員の女の子が近づいてきた。

 その子の名札を見るとと書かれていた。

 せや、それがワテとチカコはんの出会いや。

 チカコはんは笑顔で息子に手を振った。

 「今日はお越しいただきありがとうございます。この暑さですから、休憩は多めに取るようにしてくださいね」

 チカコはんは歌うように言った。ええ子やなと思ったで。

 それからワテと息子はしばらくチカコはんと世間話をしとった。

 ワテの息子はな、知能に障害があって、突然大声だしたりな、走り出したりしてまうところがあってな、正直プールに連れてくるのも気が引けたところがあったんや。でもなチカコはんがしゃべりかけてくれたことで、そんな余計な心配は吹き飛んだ。

 ワテはチカコはんを一人の人間として尊敬した。

 そしてチカコはんはワテの息子に浮き輪を持ってきてくれた。

 何かあったら私に言ってくださいと言った。

 そしてチカコはんはこう言った。

 私が責任をもって息子さんを監視しますから、と。

 ワテは息子と回るプールで泳いどった。すると突然息子がいなくなった。突然消えたんや。ワテはどこやどこやって息子を探した。誰かがワテの息子を誘拐したんやと思った…。

 そしてその時が起こった。プールサイドで監視のバイトをしていた、チカコはんが突然プールに飛び込んだ。なんとワテの息子は回るプールの吸水口に吸い込まれとったんや。チカコはんはワテの息子を救出しようとした。でも吸水口の勢いは強くてワテの息子だけやなくてチカコはんも巻き込まれた。プール中が悲鳴につつまれた。ワテも息子を助けようとプールから上がってプールの本部に駆け込んで、急いでプールの流れを停めてくれと言った。プール側は急いで回るプールの流れを止めた。しばらくしてから消防がやってきて、ワテの息子とチカコはんは救出された。でもワテの息子とチカコはんの息はもう止まっとった。

 ワテはな、息子だけが死ぬんやったらまだ、堪えれた。何も関係ないチカコはんが死ぬんは堪えられへんかった。申し訳ないじゃ済まんなと思った。あんな純粋で将来が豊かなチカコはんを死なせてしまった。

 

 チカコはんはな、まだ成仏出来てないんや。チカコはんはな、今でもワテの息子を心の底から助けたいと思ってんねん。だから幽霊になって今でもこのプールで監視のバイトをしてるんや。


 チカコはんはワテの息子を助けられへんかったのを、今でも悔やんでるんや。


 だから、あんちゃんはチカコはんとは仲良くするなと言ったんや。ワテはチカコはんに成仏してもらって、早う楽になってほしいや。チカコはんがあんちゃんのことを好きなのはわかってる。でもいつまでもチカコはんがこの世界に未練を感じてもらってはあかんと思ってる。


 チカコはんは早う極楽に行くべきや。


 極楽に行って、楽になってほしい…。


 あんちゃん、チカコはんを説得できるのはあんちゃんだけや。

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スイカ 久石あまね @amane11

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