君はどんな顔をして、あの花火を見ているのだろう 第1章
安芸吉めいぷる
第1話
「君はどんな顔して、あの花火を見ているのだろう」
僕は窓から外を見た。その頃、海沿いで花火大会が行われている。この言葉は、僕の夏の常套句だ。
僕の名前は植田夏樹。
医大の病院で働く救急救命医だ。
この仕事には満足していないが、不満はない。そりゃそうか。命を扱う仕事だから。
さらに、僕は無表情かつ冷静に手術や治療に努めている。なぜなら、当たり前のことだが救命が最優先だからだ。なので、
「植田君、君は相変わらず腕前が良いな。部長に昇進してやってもいいぞ?」
「いえ、僕は昇進は興味がなくて。」
「そうかそうか。でもな、君達の世代の医師と君では腕前はもう、雲泥の差だからな。」
医療センターの部長へ僕を勧めてくる人は、僕達の医療センターのエースである先輩医師だ。彼も無表情かつ冷静に手術や治療に努めており、判断が遅い医師を手術室の外へ突き飛ばしたこともある。もちろん腕前は良く、僕よりも命に対する熱意が強い。彼のせいで病棟のスタッフステーションの隅で泣き崩れてしまったり、最悪精神を上手にコントロールできなくなり他の病院へ転職してしまったり退職してしまった医師もいる。
僕は彼に似て来たので、「植田先輩冷たいよね」「もうちょっと優しくしてくれたらいいのに」と影でよく言われる。でも、彼は「俺もよくあることだ。気にすんな」と言う。学生時代、僕は「優しさ」で1番になっていたが、今はその輝きを自分で切り捨ててしまっている状態なのだろう。
医師としての腕前と引き換えに、輝きを失った僕は、ただでさえ平和ではない世の中で生きている意味なんてないとも思える。
学生時代に戻ろう。僕は、「優しさ」以外に
一つだけだったが、とても大きな光を放つ輝きを持っていた。
君はどんな顔をして、あの花火を見ているのだろう 第1章 安芸吉めいぷる @Mayple_Autumn
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