4.勇者は魔王と旅に出たい

★ 




毎度の事ながら、朝の勇者襲来により、落ち着く暇もなく時が過ぎていた。

流石に着替え等は、契約に移る前に魔法で済ましていたが朝から何も口にしていない。


少々遅めの昼餐を摂りながら、今後の詳細を話し合うことにした。

アレスは無遠慮に、ルーシィの隣の席に着く。


『席は沢山空いているわよ?そこじゃなくてもいいのではなくて?』

「ボクがルーシィちゃんの側で食べたいねん。なんなら、主の世話をするのも従の務めやから、膝に乗せて全部口移しで食べさせたってもええんよ?」

相も変わらず、飄々と減らず口を叩くアレス。


そう、主従契約を結んだからといって、命令に逆らえなくなるというだけで、急に恭しく敬ったり、性格が変わったりするわけではないのだ。


『契約を結べば少しはマシな性格になるかと考えていた私が浅はかだったわ…。次、その減らず口を叩いたらその眼鏡たたき割るわよ。』

朝からずっと、変態の相手をしているため多少疲れが見える、ルーシィ。


「それは堪忍やで、ルーシィちゃん。」

アレスは、ルーシィの瞳が冗談ではなく本気だと物語っていたため、口許を引きつらせながら断る。


そんな感じで和やかに?進んでいた食事であるが、アレスが本題を切り出す。

「ルーシィちゃん、これからの事やけど、二人で旅に出ェへん?」

『…………は?』

ルーシィは、愛らしい猫目の大きな碧い瞳を白黒させながらアレスの真意を汲み取れずにいる。


「主従契約も済んだことやし、魔王城ここで敵さんの襲来を、のんびり待つっていう手もあるけど、正直いつ来るか分らん奴等を待つなんて面倒臭いやん?ほんなら、手っ取り早く大陸回って残りの五大勢力の長達、全員ぶっ倒してまえばええんちゃうかな思て。」

『話が違うわ!それじゃあ、我に今世覇者になれと言っているようなものじゃない…。貴方契約前に、今世覇者なんて一切興味ないって言っていたわよね?』

もし、ルーシィが今世覇者となれば、主従契約を結んだアレスも確固たる地位を確立出来ることになる。


だが、野心を秘めていたとするならば態々ルーシィと主従契約を結ばずとも“強者”の自分だけで目指せばよいはずだ。常に胡散臭い笑顔を貼りつけて飄々と振る舞う目の前の男は、本心を決して誰にも明かさないのだ。


ルーシィは、混乱する頭を無理やり働かせアレスの次の言葉を待つ。


「勿論、契約前の言葉に嘘偽りはないで。ボクがルーシィちゃんに嘘つく訳ないやん。君との魔王城生活も新婚生活みたいで魅力的やけど、度々誰かに邪魔されるんは嫌やん。それに、心優しいルーシィちゃんのことや、此処が闘いの地になって他の支配下の魔族達を巻き込むのは本望ではないやろ?早めにこの下らない争いに終止符を打って無駄な犠牲者を減らすっていう意味でも旅に出るんは名案やと思わへん?」

『それはその通りかもしれないけれど、魔王が城を空けてしまえば誰が魔族を守るというの?それこそ、機を狙うもの達の思う壺だわ。それに自分から闘いの火種を起こすなんて愚かなこと絶対に嫌よ。』


覇者の闘いにおいて、族長が拠点とする大陸を長く空けるということは攻め込む格好の好機となる。

そのため、族長は配下を敵の種族に攻め込ませ自分は高見の見物と決め込むことが多い。


もし、長が闘いにより大陸を空けた場合、その隙に虎視眈々と機会を窺っていた者達が支配下の種族を攻落し、勢力を削ぎ落とし、最後に長を討ちとるのだ。


「その事なら既に手打ってあるから心配せんでもええよ。それに、ルーシィちゃんの“願い”とやらを叶える絶好の機会やとボクは思うんやけどな。」

『な、なぜ、貴方がそのことを知っているのよ…私はレオンにしか、云ったことはないはずよ…!!』

ルーシィの事なら、全てわかっているのだと瞳が語ってくるアレスに畏怖の念を抱く。


「ボク、偶然聞いてしまったんよ。そこのおっさんとルーシィちゃんが以前話してた時に。勿論、盗み聞きする気なんてなかったんやで?でも、聞いてしまったもんはしゃあないし、折角やったらお手伝いさせてくれへん?ボクは既に君の所有物(てごま)やで。目的のためにボクを利用すればいい。」

優しく、子供に言い聞かせるような声で甘言を吐く。蜘蛛が罠を仕掛けるように。


『貴方のいうことはどこまで本当なのか信用できないわ。それに大人しく利用だけされるような性格じゃないことも重々承知よ。』

気丈に振る舞って見せるも、少しでも気を抜けば甘言を吐く男の手に縋りついてしまいそうだった。


「酷いなァ。契約結んだ言うんに、まだ、信用してくれへんなんて、悲しくて泣いてしまいそうやわ。ボクの言葉を信用出来ひんのなら幾らでも命令すればいいやん『本音を吐け』って。そしたら、従であるボクは絶対に命令を違えることはないはずやで。そんな簡単な事で、ルーシィちゃんの信頼を勝ち取ることが出来るんならいくらでも命令してくれて構わんよ。」

そう言った、アレスは悲しそうな様子など一切なかった。その瞳は荘厳と金色に輝き揺るぎがない。ルーシィには嘘を吐いているようには見えなかった。


『わかったわ。貴方がそこまで言うなら信じるわ。それに、命令で無理やり本心を聞き出すなんて、そんな事、今後もする気はないわ。羽に誓ったでしょう。でも、旅と私の“願い”の件は話が別よ。旅には出るつもりはないわ。』

「ま、ルーシィちゃんが行きたくない言うんなら別にええよ。」

『やけにあっさりと引くわね。本当に一体何を考えているの。』

「ボクはずっとルーシィちゃんのことだけしか考えてへんよ。既にボクの脳内は狂おしい位に君に侵されてんねん。…それと大事なこと忘れとったわ。」


そう言うとルーシィの頬を左手で撫でてから自分の方に向けると、眼鏡を外しいきなりキスをした。





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最若魔王が変態ストーカー最凶勇者を従えました Mercury @mercurynovel

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