3.勇者は魔王と主従契約を結びました


「ほな、ルーシィちゃんの気が変わらんうちに、早速、契約始めよか。」

『変態な上にせっかちなのね勇者さん。わかったわ。部屋を移動して始めましょう。』


魔王城の地下にある先代魔王達の肖像画が飾られているとても広い部屋へ移動した二人。

契約を行う際は、部屋に二人だけで行わなければいけない決まりがあるため、レオンは扉の前で待機している。


「あ、せや、言い忘れるとこやった。契を交わすにあたってボクから一個だけ条件があんねん。」

『条件?何かしら?いいわよ。ある程度のことなら聞き入れるわ。でないと、貴方にメリットが少なすぎるもの。』

訝しげに尋ねるルーシィだが、基本的には受け入れようと考えていた。勿論、変なことでなければだが。


「名前や。勇者さんやなくて、さっきみたいにアレスって呼んでくれへん?」

『…え?そんなことでよろしいの?契約を結んだら、貴方のこと生かすも殺すも、我次第になるのよ?』

正直拍子抜けである。今ままでの変態ぶりからしてもう少し高度な要求をされるかと身構えていたルーシィ。


「そんなことやないよ。ずっと名前で呼んでほしかったんや、ええか?それに、ボクの命がルーシィちゃんのものになるなんて、考えただけで10回はイけそうやわ。」

何処にイけるのかがよく分らないルーシィだったが、何時になく気持ち悪い表情を浮かべているアレスと、無表情なため分る人にしか分らないだろうがドン引きしているレオンを見て、深くは聞かないでおこうと悟った。


『……わかったわ…ア、レス。それと、我から一つ契約前に誓いを立てるわ』

まだ、名前を呼ぶのは少々照れがあるが徐々になれるだろうと、この時、簡単に了承してしまったことに後悔するのは少し先のことである。


『必要な時以外は命令を決して使わないことを羽に誓うわ。』

今まで仕舞っていた羽を広げ、そう告げる。

羽に誓うというのは魔族にとって主従契約の次に重い最上級の誓いである。


アレスから望まれたわけではないにも関わらず、誓いを立てたのはルーシィなりの誠意である。


「綺麗や。ルーシィちゃんの本来の羽見たん初めてやわァ。惚れ直したわ。」

普段は仕舞っているか、羽を小さくしているルーシィだが、誓いの為に本来の姿を見せた。


ルーシィを包み込む程大きく、黒く荘厳な羽は誰が見ても惚れ惚れする美しさである。

特に魔族同士は羽の大きさや美しさで惚れられる事もあるため面倒ごとはごめんだと普段は隠しているのだ。


『少しは真面目に出来ないのかしら。いつまでも、巫山戯たことを言ってないでさっさと中央へ来て』

今にも抱きついてきそうなアレスに危機感を感じ、さっさと契約を結んでしまおうと促す。


部屋の中央へ二人が移動すると同時に、ルーシィとアレスを囲み魔法陣が浮き上がる。


ルーシィが唱える、

『汝、我に 永久の誓いを 

主 ルーシィ 従 アレス に命ず

汝の全てを 我に 捧げよ

我との 契 結び 給へ』

そう言うと、ルーシィは右手を差し出す。右手の甲にも魔法陣が浮き出ていた。


アレスが唱える、

『我 主に 永久の誓いを

従 アレス この名の基に

魂を 我の 全てを

主 ルーシィ に 捧ぐ

契 結び 乞う』

そう言って、片膝をつき、ルーシィの手を下から優しくすくい取る。


「命かけて守ったるよ、ボクの姫さん。」

アレスは、ルーシィの瞳を真直ぐ見据え、魔法陣の浮かぶ手の甲に口づけを落とす。

すると、魔法陣は消え、代わりにアレスの手の中に鎖に繋がれた一つの黒の十字架のピアスが現れた。


『これで契約成立ね。恐らく、それは主従関係の証のようなものね。私もあまり詳しくは知らないけれど、従は一度身につけたら死ぬまで外せないはずよ。それと共に主の加護を受けられるらしいわよ。私の加護なんてアレスには必要ないかもしれないけど…。それに、人によって形が違うと聞いたけれど、なぜ鎖に十字架なのかしら?』

「へぇ、それは知らんかったわ。鎖に十字架ねぇ、ボクの楔としてはぴったりかもしれんなぁ。それに、ルーシィちゃんの加護が受けれるなんて幸せすぎるわ。ボクはこれでルーシィちゃんの“所有物モノ”やな。」

アレスは、耳に穴など開いていなかったが躊躇なく右耳にピアスを突き刺す。耳から血が滴り落ちるが全く気にした様子はない。むしろ、与えられた痛みに興奮しているようにも見える。


『ちょっと、アレス血がでているわ。消毒しないと…。』

「ルーシィちゃんは心配性やな。せやなァ、君が舐めてくれれば一瞬で治ると思うわ」

『……心配して損したわ。』

契約を結んで早々に、変態を従にしたのは早まったかと後悔する、ルーシィであった。





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