第4話(終)先輩は私のことが嫌いなんですか?

 ある日の夕方。

 晴也は部屋でくつろいでいた。


[効果音:呼び鈴が鳴る音]


晴也:ん? 誰か来たみたい。このパターンは、まさか!? 面倒だから、このまま居留守を使おう。


玄関先からの声:こんにちは、宅配便です。


晴也:え!? 宅配便だったのか。はい。今開けます。


[効果音:ドアを開ける音]


友里:こんにちは。先輩ちょっと聞いてほしいことがあるんですけど。って、先輩居留守を使うなんてどういうつもりですか?


晴也:会いたくなかったからだよ。


友里:それはそれで失礼じゃないですか。


晴也:お前は一体何をしたいんだよ。


友里:私はただ。先輩に相談したいことがあるだけなんですよ。お邪魔します。


晴也:おい、勝手に入るなって。お前なぁ、少しは気遣いというものをだな。


友里:今さらですよ。それに先輩に言われても説得力が無いですよ。


晴也:う。確かに居留守を使ったけどよ。


友里:それはもういいです。それより、お宅訪問しますよ。いいですか? 相談するには環境というものが大切なんです。部屋の片づけができていないと心も荒れてしまうものなんです。まず、床が見えなくなるほどのゴミの山。次に、脱ぎ散らかった異臭のする洗濯物を放置しない、健康的な食事。この三つをクリアーしたら次は……。


晴也:いいよ、そんなに気にしていないから。もう帰ってくれないか。


友里:何言っているんですか。まだ話は途中ですよ。って、先輩。


晴也:な、何だよ急に近づいて来て。


友里:先輩は、お風呂に入るのが嫌いなんですか?


晴也:え!? どうしてそんな話になるんだよ?


友里:臭いますよ。昨夜、ちゃんとお風呂に入ってますか? シャワーで適当に済ませたんじゃないんですか?


晴也:ま、まあその通りだけど。


友里:そういうのはよくないと思います。体に悪いですから。まず、お風呂に入ることによって得られるメリットを説明していきます。


晴也:ああ……。


友里:まずは、体を温めることによって血行が良くなり、肩こりや腰痛が改善されます。


晴也:なるほど。


友里:次に、疲労回復の効果が得られます。入浴することによって筋肉の緊張がほぐれ、心身ともにリラックスできるんです。


晴也:確かに最近、体がだるかったからな。


友里:そして、何と言っても一番大事なのが、美肌効果ですね。


晴也:そうか? 俺は別に気にならないけどな。


友里:何を言っているんですか。


晴也:いや、だって男だし。


友里:関係ないですよ。むしろ、男性の方が気を付けた方がいいんです。


晴也:そうなのか?


友里:はい。男性は女性に比べて皮下脂肪が少ないので、水分を溜め込みにくいんです。そのため、乾燥しやすくなってしまって、肌荒れの原因になってしまうんです。


晴也:へぇ~。


友里:そこで、毎日のお風呂で保湿することが大切なんです。


晴也:なるほどな。


友里:分かりましたか?


晴也:分かったよ。


友里:それじゃあ早速、お風呂に入ってみましょうか。


晴也:え? 今からか? お前が居るのにか?


友里:そうですよ。善は急げと言いますしね。


晴也:……まあ、別にいいけど。って、何で俺のことをじっと見ているんだよ。


友里:脱いだものは洗濯カゴに入れてくださいね。それから浴室の床にはバスマットを置いて、滑らないようにしてくださいよ。


晴也:わ、分かったよ。


友里:あ! お風呂にお湯を張るのに少し時間がかかりますね。


[効果音:風呂場や台所を探る音]


晴也:何してるんだよ。


友里:せっかくお風呂に入るんです。外で買い物をしてきて下さい、シャンプーにリンス、ボディーソープの残りが少ないですし、野菜類や食材が少ないので買ってきて下さい。はい、これがメモです。


晴也:お、おう。じゃあ、行ってくるよ。


友里:寄り道しないで早く帰って来てくださいね。あと、帰ってきたら呼び鈴を押して下さいね。


晴也:あ、ああ。じゃあ行って来る。


こうして晴也はスーパーへ向かって買い物をすませて帰宅した。


晴也:自分の部屋なのに呼び鈴を押すのも妙な気分だな。


[効果音:呼び鈴が鳴る音]


晴也:……入って良いよな。俺の部屋だし。


[効果音:ドアを開ける音]


晴也:た、ただいま……。って、お前何してるんだ。玄関先で三つ指ついてさ。


友里:先輩お帰りなさいませ。ご苦労様でございます。お風呂にするのか、ご飯を食べるのか、私を食べたいのか決めてもらいたかったのでお出迎えをしたんです。


晴也:食べって……。お前、さらっと何言ってるか分かってるのか?


友里:……あ、済みません。家のお母さんが、お父さんを迎える時にこんなことを言っていたのを見たことがあったのでつい口にしてしまいました。


晴也:……おい、子供の前で、そんなこと聞かせるなよ。


友里:お陰様で、私を長女に4人も子供がいます。


晴也:そうなのか……。そ、それは良いことだ。家庭にも、日本にとってもな。だが、俺にそんなことを聞かせるなよ。


友里:大丈夫ですよ。私は気にしてないので。そう言えば、お風呂に入ってもらうということで、出かけてもらっていたのでしたね。どうぞお風呂に入って下さい。


晴也:ああ。入らせてもらうよ。


友里:ところで先輩は、体を洗うのにボディーソープを手につけて擦るのと、タオルにボディーソープをつけて擦るの、どっちなんですか?


晴也:俺はいつも前者の方だけど。どうしてそんな事を?


友里:そうなんですか。


晴也:それがどうかしたか?


友里:いえ、先輩の背中を流すのにどちらにしたらいいかなと思いまして。


晴也:はぁ? いやいや待ってくれ。それはどういう意味だ!?


友里:え? 言葉通りの意味ですが。何かおかしいですか?


晴也:いや、おかしいだろう! 何で後輩に背中を流してもらわなきゃならないんだ。言っておくが俺が風呂に入ったら絶対に入って来るなよ。


友里:そうなんですか。家の両親はいつも一緒ですよ。


晴也:お前の家の常識を、俺のアパートに持ち込むな。


友里:分かりました。あ、でも呼びかけて返事をしなかったら、風呂場で倒れていると思って乱入しますから覚悟しておいて下さい。それでは先輩どうぞ、お入り下さい。


晴也:ちょっとは人の話を聞けよ……。もういいや……。風呂入ってくるから適当にくつろいでてくれ。って、だから俺のパンツに手をかけないでくれ!


友里:介助が必要かと思ったので。では、私は失礼します。


風呂場の外から友里の声:せんぱーい。お湯加減いかがですか~?


晴也:あ、あー気持ちいいよ。……あいつ、絶対にわざとやってるだろ。まったく、友里のせいで、余計に疲れてしまったじゃないか。今日は早く寝よう。


[効果音:湯船から出る音]


晴也:友里の言うように、シャワーより湯船に浸るってのは、良いもんだな。……って、お前、まだそこにいたのかよ。


友里:何言ってるんですか。お風呂の後は、食事と決まっているじゃないですか。今日のメニューは炒飯と餃子、中華風野菜炒め、卵スープです。ちゃんと栄養のバランスを考えたんですよ。


晴也:え? これ、作ってたのか?


友里:はい、もちろんです。


晴也:あ、ありがとう。


友里:さ、先輩冷めないうちに召し上がって下さい。私もお腹が空きましたので一緒に食べましょう。


晴也:お、おう、い、いただきます。……うん、おいしいなぁ(汗)。この前の飯といい、友里って本当、家庭的だよな。こういう料理なら毎日食べたいくらいだな。って、何を言わせるんだ。ほら、友里も俺の顔をじっと見てないで、お前も食えよ。


友里:ええ。私が作りましたが、台所はや食器は先輩の持ち物です、ありがたく頂戴しますね。はむはむ。


晴也:この餃子って、どこの商品だ。甘みがあって、おいしいな。


友里:私が作ったんです。タマネギを多めにして、甘さを引き立てたんです。


晴也:手作りかよ。驚いたな。


友里:私、これでも料理は好きなんです。


晴也:この野菜炒めもうまいな。


友里:鶏ガラスープの元を使って味付けしたんです。塩分控えめで体にも良いですから、いっぱい食べてくださいね。


晴也:俺、一人暮らしで野菜をあんまり摂らないからな。お前が居てくれて良かったよ。また何か礼をしないとな。


友里:いえいえ、大した事じゃないですよ。先輩が喜んでくれただけで十分です。


晴也:いや。友里が俺の部屋に来てくれるようになって、なんか凄く居心地が良くなったよ。感謝してるよ。


友里:ありがとうございます。その言葉が私にとって一番のご褒美です。ところで、先輩私相談事に来たんですが良いですか?


晴也:ん? ああ、別に構わないけど。そう言えば、友里は毎回俺の部屋に来ていた理由は、それだったな。


友里:……。


晴也:どうした? 急に改まって……。いつもずけずけと、言いたい放題だろ。


友里:私……あの……その……えっと……。


晴也:どうしたんだ? いつも冷静さを持ってるお前らしくないな。


友里:……先輩。


晴也:ん?


友里:ど……。


晴也:ど?


友里:……ど、同棲しませんか?


晴也:…………はぁ? 何言い出すんだよいきなり。


友里:私、先輩のことが中学の時から、ずっと好きでした。大学で先輩のことを見ても、やっぱりこの気持ちは変わらなかったんです。私は、もっと先輩と一緒に居たいし、傍にいて欲しいんです。駄目ですか?


晴也:ちゅ、中学って。俺、そんな昔から、友里と会ってたのか。どんな出会いだったんだよ。


友里:それは私の自転車のチェーンが外れて困っていたところを、通りがかった先輩が助けてくれたのがきっかけです。先輩は、手をグリスまみれにしながら、一生懸命直してくれましたよね。その時の先輩の横顔を見て、私は恋に落ちたんです。


晴也:そ、そうだったのか。それは悪かったな。


友里:いいえ、あの時の先輩は本当にカッコ良かったです。


晴也:……いや、でもな。いきなり同棲ってのは、どうだ。俺たち学生だし、そもそもお互いをよく知らないだろ。もう少し時間をかけてお互いのことを理解し合ってからでも遅くはないんじゃないか?


友里:……分かりました。では、これからゆっくりと先輩のことを知ろうと思います。


晴也:ああ、よろしく頼むよ。


友里:では、お風呂に行ってきますね。


晴也:ああ、いってらっしゃい……。って、何しれっと俺の部屋の風呂に当然のように入ろうとしているんだお前は!


友里:だって、せっかく張った湯船がもったいないじゃないですか。二人一緒に住めば、家賃も光熱費も抑えられて経済的です。ご飯だって、お洗濯だって、お掃除だって分担できますよ。それにお互いのことが良く知り合えて、良いことばかりじゃないですか。

 ま、部屋は少し手狭になりますけど、そこはちゃんと確保できるように、これまで私が細工をしてきた訳ですけどね。


晴也:なるほど、今までの、友里の行動はそういうことだったのか。というか、もしかして今日ここに来た理由って、風呂に入りたかっただけなのか!?


友里:いえ、それが一番の理由ではありませんが、やはり一緒に住むのが経済的かなって。アルバイトの収入も決して多くありませんし、将来に向けて貯金をしていく為にも、ここは先輩と一緒に暮らしたいんです。


晴也:……ま、まあ。友里の作る飯はおいしいな。


友里:それに一人で食べるより、二人で食べた方がおいしいですし、楽しいです。


晴也:……いや、だからってな。


友里:先輩は私のことが嫌いなんですか?


晴也:いや、嫌いじゃないんだが。


友里:じゃあ、好きなんですね。それなら、何も問題ないですね。私、先輩に嫌われているんじゃないかって、いつも心配してましたから、それを聞いて安心しました。


晴也:……だから嫌いじゃないけど、そういう好きじゃないんだって。いや、そもそも俺は今まで付き合ったこともないんだぞ。初めてできた彼女だぞ。どうして良いか分からんぞ。


友里:大丈夫です。私も、誰とも付き合ったことありませんから。


晴也:え、そうなのか?


友里:はい、そうです。


晴也:じゃ、なおさらじゃないか。いきなり同棲ってのは、やめようぜ。


友里:大丈夫ですよ。少しずつ慣れれば良いじゃないですか。私も協力しますから、頑張って下さい。一ヶ月を目処に、同棲できるように先輩の生活に私が入り込むようにしていきますね。


晴也:なんでそうなるんだ。


友里:そうなるべきなんです。


晴也:……分かったよ。なら、俺の家の合鍵、お前に預けておくよ。そうすれば、お前が勝手に入ってこれるしな。って、おい、何で泣いてるんだよ?


友里:ぐすっ、あ、ありがとうごさいます……うぐっ……うっ……。わ、私、絶対に先輩のこと幸せにしますから。


晴也:いや。月並みなセリフだけど、男の俺の方が、言うべきだろ。……友里のことを幸せに、したいからな。


友里:ありがとうございます、先輩。私、もう死んでもいいです。


晴也:死ぬとか言うな。死んだら、友里が幸せになれないし、幸せにできない俺が困るだろうが。ほら、いい加減に泣き止めって。


友里:……はいっ!(涙声) じゃあ、お風呂入ってもいいですか。


晴也:ああ、良いよ。行ってこい。


友里:はい、そうします。そうだ覗きたかったら覗いてもいいですよ。先輩になら見られても恥ずかしいけど嫌じゃないですし。


[効果音:ドアが閉まる音]


晴也:いや、見ねえよ……。そう言えば、友里が俺の部屋に来てから、写真なんて置いてったな。考えてみれば、あの時から意識させるように仕向けられてたのか。なんか、してやられたって感じだな。

 それにしても、あいつあんな嬉しそうな顔して、かわいいな……。くそ、何だよ、このドキドキした気持ちは! 落ち着け、俺! とりあえず、晩飯食って落ち着こう。うん、美味いな。さすがは、友里だ。……ごちそうさまでした。さて、食べたら、そのままにせず整理整頓、片付けをしないとな。食器を洗をうか。


~fin~

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先輩ちょっと聞いて欲しいことがあるんですけど kou @ms06fz0080

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