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花野井あす

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 旅人は一人、崖の前にいた

 

 左右は何もなく――


 崖の底は何も見えない

 

 川が流れているかもしれぬし、そうでないかもしれない

 

 木々が生い茂っているかもしれぬし、そうでないかもしれない

 

 然程深さはないかもしれぬし、そうでないかもしれない

 

 刹那とも言える時の中、旅人は迷った

 

 此処で立ち止まるか

 此処で諦めるか

 私の旅は、此処で仕舞いか


 元に戻ることは出来ない

 他の道を選ぶことも出来ない


 旅人は考える

 時間はない


 左右は壁

 後ろには戻れない、進めない


 此処は賭けに出るか


 運が良ければ

 川が流れていれば

 木々が生い茂っていれば

 崖が浅ければ


 若しかすれば前に進めるかもしれない

 若しかすれば旅が続くかもしれない


 旅人は足を踏み出した


 結果はどうあれ

 旅人の旅は続く

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