第2話 里帰り

「子々孫々の繫栄に向け、元気に励んでおるか?」



 という言葉で、ノクタリナからのメッセージが始まった。

 フレイムリトルが持参した宝石が、家の壁にその美しい姿を投影している。



「ヴィクトルの身体も回復している頃だろう。話せるようになったか?

 早速なのだが、混沌の海とつながる穴を一つ埋めてもらいたい。

 平面座標的には主らの家からそう離れておらぬ。ただ、大変に深い位置にある。」



 ノクタリナの隣に、立体的な地図が浮かび上がる。



「地中には空洞が存在し、その底には混沌の海と繋がる穴がある。急を要する状況ではないが、その空洞から地上に通じる穴がいくつかある。そのため、混沌が溢れる危険性が増している。二人には、その穴を通って底まで降り、根本の穴を塞いでほしい。

 力を得た今の二人ならば、何の問題もないだろう。穴の入り口の場所は、フレイムリトルが知っているから案内してもらうといい。」



 隣のフレイムリトルがまかせてと頷いた。

 その目は、任務を託された喜びで輝いている。



「目的地の名前は......『第9地底都市、アンティリア』。人間たちが隠れ住んでいた地底都市だ。では、よろしく頼むぞ。」



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 たどり着いたその場所に穴は開いていた。

 直径2メートルほどのその穴は、どこまでも深く、地の底へとつながっている。



「女王様が言ってたけど、この穴の深さは1万2000メートルくらいなんだって。『何か詰まってるかもしれないから、気をつけてね』って。」


「ふふ、ノクタリナってば、いつ通り大ざっぱな感じね。でも大丈夫、暗くても私たちの力で明るくできるから。何か邪魔が出てきたら、さっさと片付けちゃうわ。ヴィクトル、大丈夫?」


「アリア、いつでも大丈夫だよ。……ただ、こんなふうに故郷に戻るなんて、思ってもみなかったな。」



 ヴィクトルの言葉に少し心が痛んだ。



『第9地底都市、アンティリア』



 それは彼が生まれ育った場所。

 人々が隠れ住む地底の都市で、黒い炎によって壊滅した。

 その黒い炎は、私が以前海底で見たものと同じ、混沌の海の一部だった。


 黒い炎は人魚への対抗手段として研究されていたそうだけど、ヴィクトルも詳しいことは知らなかった。



――― その炎に飲まれたものは、肉体だけを失う。

――― また、灯りに照らされたものの臓腑は腐り落ち、息絶える



 ヴィクトルの記憶にあった、黒い炎についての一節。

 彼もかつてその炎に照らされ、死に瀕していた。でも、混沌の海との取引によって、新たな肉体と力を得た。


 混沌の海との交渉を通じて、世界の底に空いた穴を塞ぐ使命を負う代わりに私たちは混沌を、すなわち可能を制御する力を得た。


 竜の女王であるノクタリナは混沌の海の代理人で、世界の底に空いた穴の情報を教えてくれる。

 今回の連絡は、彼女からの初仕事の依頼だった。



「それじゃ、フレイムリトル、私たち、ちょっと出かけてくるね。ノクタリナに成功を祈っててねって伝えて。」



 フレイムリトルは小さく頷き、その可愛らしい姿に心が温まった。

 ヴィクトルと手をつなぎ、私たちは穴に飛び込んだ。



=====

エ様『今回はイチャイチャせんのじゃな、物足りん。』

門東『手をつないだくらいですからね。』

エ様『里帰りか、でも何かいるのか?』

門東『デジタルアーカイブとかは動いているんじゃないですかね?』



『ぼく食べ』と異なる時代の同じ世界が舞台のお話、公開停止になったアイザックとレイラが大活躍するお話、『巨根ハーフ』R18版はこちら(↓)での連載となります。

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【ぼく食べ】僕を食べたくないと、僕の上で君は泣いた 門東 青史 @kadosei1010

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