第10話 痛みと……
「ぁっ、ふっ……」
静かな部屋に、くちゅくちゅと嫌な水音が響いている。
その中で私はひたすらに、お姉さんに解かされていた。
からだがあつい。ぐるぐるとしらないかんかくがめぐっている。ろれつも回らず、わたしはひっしにめのまえのひとにすがりついた。
「おねっ、さ、もっ、いらなっ、ぁあああぁあ!?」
「ふふ、大丈夫よ。なんにも怖くないわ。ほら、ここはどう?」
おねえさんの指が、私の中を暴いていく。自分でも知らない場所を蹂躙される感覚に、背筋がゾクゾクして脳が蕩けた。
「そう、上手よ。いい子ね、春香ちゃん。ふふ、綺麗でかわいいわ。もっともっと私だけに見せて?」
「ぁ?っうん、お、ねっ、さ、あ」
苦しい。足りない。もっと、もっと暴いてほしい。もっと私を求めて。春香でいる私だけを見て。偽物じゃない、作られた私じゃない、春香そのものを見てほしい。快楽にほだされて、焦点のぶれる視界にお姉さんが写る。その笑顔はお母さんと同じようにゆがんでいて、でもお母さんより安心できた。もっと、もっと私に歪んで。もっと私を暴いて、私におぼれてくれたらいいのに。
「ね、おねえさんっ、もっと……っ!」
「!!……いいわよ。もっともっと私に善がって?」
春香ちゃんの細い白い足が、私の腰に巻きつく。求められているその感覚が、脳内に麻薬のように染みわたった。私の指先一つで、まだ誰にも暴かれていなかった体をさらけ出してくれる。ああ、かわいいわね。背筋がゾクゾクするほどの優越感が、私の躰を満たしていくの。
そうして甘く甘く、激しい水音を立てて、春香ちゃんを溶かし切ったわ。
その次の日の、早朝のこと。
私、不意に怖くなってしまったの。今、私の隣には、確かに春香ちゃんが存在してるわ。安らかに穏やかに、私に足を絡ませて眠っている。
けれど。
私じゃ春香ちゃんが満足できなくなってしまったら?
今は、私が唯一。けれど、この先は?私の方が、春香ちゃんより先に醜くなっていくのに。その時に、私以外の誰かを望まれたとしたら?
どく、どく、と心臓が嫌な鼓動を刻む。冷や汗でぬるつく手が気持ち悪いわ。ああ、不安で、怖くて、どうしようもないの。おいていかないで、いらないって言わないでちょうだいよ。お願い、私を愛して。ぬくもりを分けて。さびしい、怖い、寂しい、寂しい。嫌ったりしないで、どうしたらいいかわからなくなるの。妄想の中の私は、出ていこうとする春香ちゃんにすがっている。
あの人に縋りついた時と同じように、ぼろぼろ泣きながら。
そうやって、日も差さない暗い室内で悶々としていたら。不意にぷつりと何かの糸が切れたの。今思えば、それは切れちゃいけない何か。私が私であるための、人としての何かだったように思うわ。
けれどもう遅いの。糸は切れてしまったの。私は、眠る春香ちゃんの首に、そっと手をかけた。そのまま、じわじわ力を強めていく。
そうよ、私の物でいてくれる今のうちに。手に入れなきゃ、なくさないように、絶対なくしたくないの。お願い、拒まないで。こうしないと私、安心できないんだわ。ちゃんと私を愛したまま、私の手で死んでくれなきゃ。そうしないと、手に入らないから。どうかどうか、そのままでいて。綺麗な私だけ見て、私に失望なんてしないで。
メンヘラな犯人と、その上を行く被害者 鉄 百合 (くろがね ゆり) @utu-tyu
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