富津野高校七不思議の謎
いちのさつき
ひとつめとふたつめ
ひとつめ。
「富津野高校の六つの不思議と会った時、七つめの不思議が出現する。そしてその深淵を見ることになるだろう」
まだ報告例は来ていない。ひょっとしたらないかもしれない。それでも調査はやる。富津野高校の生徒の俺に力はないが、不思議な物事に遭うことが多かったから、先生に依頼されたのだ。まずは最初に出会う、校門近くの金次郎像だ。
「お前……本を持ってるか」
突然言われたら、誰だって戸惑うものだ。しかし俺の鞄にはある。短編集と呼ばれるものだが、有名作家が揃っている。退屈しないだろう。
「持ってるよ。丁度読み終わったからあげるよ」
「いいの?」
金次郎が嬉しそうだ。読み終わったら、二度と読まない俺にとって、それは問題にはならない。だから頷いた。
「ああ」
「ありがとう。よいしょっと」
重いものを下ろして、早速読み始めていた。
「これ短編集なんだな。俺の知らない名前がある」
「そりゃ明治から昭和までの短編があるからな。しかも若い作家の作品もある」
「いい勉強になるな。本当は図書室に忍び込みたいんだけど、鍵が閉じてるから入れなくて困ってるんだよな」
ふと思い出す。遅く退勤する先生が言っていたことを。
「だから走り回っていたのか?」
「そうだ。俺は仕事をしながら勉強しなくちゃいけない。本が欲しいのだが、手に入らなくてな」
真剣な顔だ。彼なら問題を起こさないし、本を元の位置に戻すだろうと、俺は鍵を見せる。
「図書室は難しいけど、共有のとこには本がいくつもあるんだ。元の位置に戻すと約束してくれれば、一緒に入ろう」
顔が明るくなる。満月の光に当たっているから、眩しく見える。
「いいのか! ありがたい!」
そういうわけで俺はひとつめの不思議の動く金次郎像と一緒に校舎に入ることになった。
ふたつめ。
本がある場所を教えたら、動く金次郎像はありがとうと大きい声で叫び、廊下を走っていた。それは校則を破っているが、注意する人はいない。俺自身は風紀委員ではないので、特に注意する気はない。次の不思議の居場所があれなので、説得力が失せてしまうというのもある。二階の女子トイレに入る。これ自体がよろしくないことだ。普段なら確実に指導行きだ。調査という名目があるから、許可を貰っているだけに過ぎない。
「いきなり付けるな」
カチリと灯りを付けると、目の前に黒いおかっぱ頭の着物姿の幼子がいた。いや。声だけなら幼子ではなく、老婆に近いものなのだが、いきなり電灯が付いたためだろう。
「ごめん。明るくしないと分からなかったから」
周囲を見たが、幼子以外は誰もいない。そうなると、やはり幼子自体が不思議のひとつなのだろうか。俺はしゃがんで目の前の子に聞く。
「君、名前は」
「花子。男はここに入っちゃだめって聞いたけど」
幼いが鋭い。俺は正直に伝えた。
「そういうわけで俺は調査で中に入っているんだ」
「ひとりで?」
「うん。不思議な出来事に出会いやすいからこうなっただけだよ」
花子ちゃんは俺の頭を撫で始めた。まるで感触を確かめているようだ。母親に撫でられているようで気持ちいい。
「頑張って。私は何も出来ないけど。あ。もし危なかったら逃げてよ!? 学校の夜はとても危険だから」
心配そうに忠告してくれた。年下でもありがたく受け入れておきたい。涙が出そうな幼子には弱い。
「気を付けるよ。ありがとね。花子ちゃん」
それでも調査をしないといけない。適切な言い方を使って、俺は次の調査に向かう。
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