みっつめとよっつめ

みっつめ。

 階段を上り、三階の廊下で歩いていると、窓を叩く音が聞こえた。何事かと思って、窓を見ると、透明の複数の手が必死に叩いていた。鍵を開けてみると、地上から伸びて叩いていたことが分かる。


「なあ。ここ……三階なんだけど」


 聞こえているのか、複数の手が三つと表現している。複数の手の中のひとつが差し出す仕草をする。


「出せってことね」


 俺は要求に応じる。新しい手が何かを持ってくる。野球ボールだ。下は野球部の練習場だったと思い出す。


「だからか」


一人で納得していたら、人差し指でこっちに投げろと動かしていることに気付く。応じるのも悪くないと思って、下に投げる。三階から投げているため、変な投げ方となっている。それでもたくさんの手は気にすることなく、上手に捕球している。今度は緩く投げてきた。平面だったら、異なっていたのだろうかと思いながら、俺は素手でボールを捕らえる。それを何度も繰り返す。その途中でピアノの演奏が耳に届き始めた。夢中になっていて忘れていた。


「やっば」


 ボールを捕って、両手で合わせて、すまんと伝える。理解してくれたのか、複数の手は指で丸を作り、手を振ってくれた。


「ありがとう! また機会があったらやろうな!」


感謝を告げた後、窓を閉める。ボールを持ったまま、四階の音楽室に行く。



よっつめ。

 鍵を使って、音楽室に入った途端、ピアノの演奏が止まった。驚かせてしまったのかなと思いながら、見えない奏者に言う。


「続けて」


 ピアノの演奏が再び始まる。音楽の知識を持っているわけではない。芸術を得意としているわけではない。それでも心が感じている。日本の季節を表現しており、綺麗に奏でている。目を閉じて想像できるぐらい、素晴らしいものだと思う。そう思っていたからだろうか。途中から口ずさんでいた。


気付きつつも、俺は歌う事を止めなかった。楽しいことを中断することなんて出来なかった。また、奏者が受け入れている中、無理やり止める気持ちはなかった。何曲やったかは分からない。数分は確実に経っている。いつの間にか演奏が止まって、夜の静けさが戻っている。戸惑いながらも、黒板に何か書いていることに気付く。


「歌ってくれてありがとう」


 会話で接したわけではない。いや。ただ曲を聞いて、歌っただけだ。それでも交わせるものがあると感じている。交流は話をするだけではないことを改めて学んだ。白いチョークを手に取り、「どういたしまして」と書き、音楽室から去った。翌日になったら、先生が驚くことになるが、それはその時だ。

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