第4話 だれの夢
九月も中頃になると、璃子の住む街は吹く風に秋を感じて来る。
この頃おかしな夢を見る。
回りを鬱蒼と茂った木々に囲まれて、目の前には鳥居があり、そこを潜りユラユラと歩く二十代位の着物を着た女の人が石畳を歩いている・・・そんな夢。
そして何故かその女の人が自分自身だと分かるのだ。
その大人の姿をした自分は、まるで何かに呼び寄せられている様に、ユラユラと石畳を進んでゆく。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。
両脇には幾つもの墓石が並び、その先中央に、周りの墓石とは違い一際大きな墓石が建っていた。
吸い寄せられる様にその大きな墓石に近付いて行くと、何処からかすーっと武者の様な姿が現れてきた。
「この時をずっと待ち侘びていた」その言葉と同時にお経の様な、何かを唱えている言葉が頭の中に流れてくる。
するとその武者に吸い寄せられる様に体がゆっくりと近付いゆく。
頭では近付いてはいけないと分かっているのに、体は言う事を聞かずその武者に引き寄せられてゆき、そのまま姿を間近で捉えた時にそのどこまでも黒く深い穴の様な漆黒の闇に捕らわれるように意識が遠くなり、気付けば目が覚めていた。
「またあの夢・・」
目が覚めると、グッショリと汗をかき、体中がベトベトし怠さが残る。
今日で六日目。
毎晩同じ夢を見ていた。
それにしても、何故着物姿なのか?あの場所は何なのか?あの武者は?分からない事ばかりだ。
そして今夜も同じ所から夢が始まり、同じ所で夢が覚める。
いつ終わるのか分からないままに夢を見続ける。
七日目の夜が来た
また同じ所から始まる。
ただ、今回違ったのが何故か鳥居をくぐり歩けども歩けども、あの墓石が並ぶ場所には着かず、お経の様なあの声だけが暗がりの中で聞こえてくるだけだった。
その声はどんどん大きくなり、璃子は耳を塞ぐが声は耳を通して頭の中に響き渡り耐えられない程に苦しくなっていた。
「う・うわぁーー」
自分の声で目が覚めると、ベットから上半身を跳ね上げ肩で激しく息をした。
既にカーテンの隙間から朝の日差しが差し込んでいた。
あれは何?何だっの?・・・。
そんな事を考えながら重い体に力を入れベットから起き上がると、カーテンを開け外を見ようとした璃子の目に有り得ない物が映った。窓ガラスにまるで誰かが覗いた様な指の跡が、くっきりと残っていた。
「ひっ」
思わず声にならない叫び声を、両手で塞ぎその指の跡を凝視するしかなかった。
何故なら、指の数が左右共に三本ずつしかなかったからだ。
ゆっくり窓辺から後退り、直ぐに階下のトイレへと逃げ込み、洗面所に顔を埋め苦い汁を吐き出した。
肩で息を整えゆっくり顔を上げると、鏡に写った自分の頬にまるで指でなぞり付けた様な赤く筋が三本付いていた。
慌てて洗い流し、頬を撫で鏡に擦り付ける位に近付いて自分の顔を見たが、傷の一つもなかった。
何が起きたと言うのだろうか?
後に、この夢で見た場所で自分の身に起きる事が、人生を狂わせてしまうとは想像していなかった。
声 霜月 雪華 @leewave2000
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