垢BANされた迷惑系配信者、貞操逆転世界になっていることに気付かずに新アカで配信をした結果、PKを賞賛するコメントばかりになり、困惑し自分がどれだけ悪いことをしているか説明した結果、いい人バレする

竜頭蛇

第1話 本編


 迷惑系ゲーム配信者タツマは、急していた。

 動画配信サイトのアカウントをバンされてしまって、配信が行えないのだ。

 もうすぐ姉の大学の入学費を払うために纏まったお金がいるし、ずっと返して続けてきた父親の残した借金が元の金額からすればわずかなものだが、残っているというのに、このままではどちらとも入金期限に間に合わずに大惨事になりかねない。

 タツマとしてはできればこれ以上騒ぎを大きくしたくはなかったので、新しいアカウントをつくりたくはなかったが、この追い込まれた状態ではもう四の五は言っていられない。

 バレて、今炎上しているところに油を注ぐことになったとしても、いち早く、収益化し、金を集めなければならない。

 タツマは決意を新たにすると、早速配信を行なっていく。


 途中で頭に痛みが走り、視界がブレたような奇妙な感覚に襲われたが、他のもののことを気にする余裕のないタツマは配信の準備を進めていく。

 たとえ違和感を気にしても気付けることではないが、今タツマは並行世界にいる貞操逆転世界のタツマに魂だけ転移させられていた。

 貞操逆転世界のタツマの魂は自分の体が勝手に動くことに違和感を抱き、気づいたが、あまりにも一生懸命な転移してきたタツマのことを不憫に思い、自由にさせ、記憶が流れ込んできたことで借金苦の壮絶すぎるタツマの生活を見て、貞操逆転世界のタツマの魂は同情し、満足するまでは体を貸してやることにした。


「皆さん、始めまして、新米配信者のマツタでーす。高ランクプレイヤーをバンバンPKしていって、パニファンの世界を阿鼻叫喚の渦に包んでいきたいと思いまーす」


 もはやバレることは時間の問題だと思っているタツマは、名前を逆にしただけの雑な偽名を名乗ると、いつものように煽るような口調で配信内容を紹介していく。


「うん?」


 ゲームを始めるとタツマの操作アバターの上に、青い旗のような表示されており、一瞬違和感を覚えるが、人が集まり始めたので、アップデートで増えた何かの称号か何かだろうと割り切るとアバターを動かすことに意識をもどす。

 実際のところは貞操逆転世界でごく少数しかいない男性プレイヤーを見分けられるようにゲーム会社が作った女性プレイヤー向けの機能なのだが、やはりタツマは知る由もなく、いつも通り、高ランクプレイヤーをPKするためにバフをかけて突撃していく。


「はい、いっちょ上がりー」


 相手が対応する隙も与えずに、タツマは一刀の元にPKすると、勝ち誇るように自分に両手の親指を向けて、お前を殺したのはこの俺だというように相手を煽る。


『わー、すごいですねえ!』『うまいですね!』


 いつもならばこの段階で、暴言や殺人予告などが嵐のように送られてくるのだが、なぜか逆に褒められ、タツマはひどく不気味な気分になる。

 しかもどんどんとタツマを称賛するようなコメントが増え、チャンネルを登録する数が前のアカウントの比にならないレベルで増えていく。


「いやいや、流石におかしいでしょ!」


 ここまでいくと流石のタツマも何かがおかしいことに気づいた。

 先ほどからタツマを全肯定するようなコメントばかりな上、コメントの感じからして、どう見てもタツマのチャンネルでコメントを書いている人間たちと同一人物ではない。


「俺はPKしてしかも煽ってるんだから! 叩かれてもしょうがないことしてるのに、なんで褒められて!」


 タツマがあまりの事態に耐えかねて、そう漏らすと、コメントがすごい勢いで送られ始める。


『男の子が絡んでくれるだけでも眉唾ものなのに、これだけゲームも上手いなんて』『わざわざ女に絡んでくれる男は現実でもいないし、しかもこのゲームなんて青旗機能のせいで、ただでさえいないから』


 男が絡むだけで、眉唾もの?

 普通なら逆だろとタツマが内心で突っ込む中、さらにコメントは加速していく。


『というよりも悪ぶってるのに、マツタさん優しいんですね!』『ギャップ差いいわ』『もしかして構ってほしくっていたずらしとったんか!! オスガキなんか? オスガキなんか、マツタ!?』


 煽りで再生数を稼いできたタツマが危機感を抱く一方で、貞操逆転世界特有の視点から彼を称賛するようなコメントが続いていく。

 タツマが頭を抱える一方で、なぜか、収益化たった今通った通知が来て、どんどんとスーパーチャットで万規模のお金がどんどんと送られてくる。

 1分ほどで姉の入学費と借金の額を超えると、理解が追いつかなくなったタツマは呆けた顔をして、莫大なお金が入金される様子を見つめる。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 入金が収まると、すでに再生数を稼ぐためにつけた迷惑系配信者としての仮面が剥がれ、タツマは素直に感謝の言葉を連ねていた。


「これで姉の入学金と親父の借金が返済できます!」


 感極まったタツマは言わなくてもいい言葉を言ったことで、同情を誘い鎮まりかけた入金が再度加速する。


「あ! あ!」


 もはや収拾のつかなくなり、入金額が桁数が増えていくことに、タツマの口から小さな悲鳴が上がる。

 途中でわずかに平静を取り戻したタツマが配信を強制終了させる頃には人が一生で稼げる限度額と、1000万人の登録者ができていた。


 ことが終わった後、転移してきたタツマに体を貸した貞操逆転世界のタツマは、簡単に体は貸してはいけないと反省した。

 


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