51歳ー4
「さあ、謎解きの時間だ! まとめてやっちゃうね」
ムズさんは山になった証拠品に次々と目を通していく。そのスピードはとても速い。どちらかというとのんびり屋のムズさんとは思えない速さだ。
ものの3分ほどですべてを見終わると、むふーっと音を鳴らして満足そうに微笑んだ。
「すべての謎が解けた!」
空気に緊張が走る。全員が固唾を呑んで見守っている。
「犯人は! あなただ!」
高くから振り下ろされた指は、まっすぐと僕をさしていた。
「……犯人って、なんのことですか?」
「犯人は犯人だ。シーツの黄色いシミは、アクト少年、君がつけたものだよ」
有無を言わさぬ物言いに、少し怯んでしまう。
「まさか、アクトくんもニナちゃんの布団に潜り込んでたの? サイテー」
「違いますよノエルさん。自分のことを棚に上げて、よくそんなことが言えますね」
「私はいいのよ。ニナちゃんの許可貰ってるし」
「許可した覚えはないけどね」
まずい。この場をなんとか乗り切らなければ。
「ムズさん、どういう根拠でそんなおかしなことを言っているのですか? 説明してくれますか?」
「もちろんさ。アクト少年が犯人である根拠は、私が名探偵だからだ」
「……どういうことですか?」
「つまり、名探偵であるこの私には、『謎』と十分な『証拠』さえあれば、必ず『真実』を導き出せるのだ! どうやっているのかは私自身にも分からないがね」
「そ、そんなのずるい!」
2歩3歩と後退りをすると、背中から壁にぶつかった。
「あれ? 違うの? シーツも見てみるね」
ムズさんはシーツに鼻を近づける。そして。
「やっぱりこのシーツはアクトのだね! 洗濯してあっても私にはわかるよ。いい探偵ってのは、鼻が効くんだ!」
僕は酷く赤面した。
「つまり、単純にあたしとアクトのシーツを取り違えていたと」
ニナさんが言う。
「はい。そうです」
「そして、アクトくんは今でもたまにおねしょしちゃうから、シーツに黄色いシミができちゃってたんだね」
ノエルさんが言う。
「はい。おっしゃるとおりです」
「ギャハハハ」
カイが爆笑する。
「まあ、アクトは肉体が成長しないからな。治るものも治らないよな」
ニナさんが僕を慰める。
「そう、だよな、ププ、おねしょしても仕方がない、クク、よな。だめだ、我慢できねえ、ギャハハ」
カイがまた笑う。
「でも、よくこんなに長いこと隠し通せたな。もうここに来て50年は経つんだろ?」
ジュンが関心したように言う。
「……ニナさんは昔から知ってます」
全員の視線がニナさんに集まる。
「……ほら、ちょっとアクトが可哀想だろ?」
黙っていてくれたニナさんは、なんだかバツが悪そうだ。
「それより、ムズの話をしよう」
ニナさんが話題を変えてくれた。
「ムズ、あんた、謎と証拠があれば、必ず真実にたどり着けると言ったね?」
「うん。推理の過程は私にも分からないままだけどね」
「その謎は何でもいいのか? 例えば、ダンジョンの存在に関する謎でも」
「んー」
ムズさんが頭を捻らせる。
「たぶん、可能だよ。でも、そんな大きい謎だと必要な証拠が莫大になるかも。現実的ではないかな?」
「ノエル、手伝ってくれ! いや、やっぱりいい。ムズを連れて行ったほうがはやい。ムズ! ついてきな!」
ニナさんの研究室には、ニナさんがこれまで500年以上ダンジョンに潜り集め続けた膨大なデータがある。これは、ひょっとしたら。
期待と不安に胸を膨らませ、ニナさんとムズさんについていく。
崩れんばかりの紙の資料の山を見て、ムズさんが悲鳴をあげる。
「え! 今からこれ全部に目を通すの!?」
「地道な作業も探偵の仕事さ。頼んだよ、ムズ」
不老らしいので気長にダンジョンを攻略します 熊野石鹸 @gyunyui_i
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