51歳ー3
「証拠を集めると言っても、汚れたシーツくらいしかないですよね?」
「ううん、シーツは最後の答え合わせだよ。その前に私の探偵としての能力を見せつけなきゃね!」
そう言うと、ムズさんは部屋にあるものを手当たり次第にかき集めだした。
上着にズボン。洗剤。ニナさんが使うペンと紙。ちりとり。お昼に食べたカレーの残り。
謎解きのヒントになるはずもなさそうなものまで、どんどんと一箇所に集めていく。ちょっとした山が出来上がった。
「ムズさん。何をしてるのかわかりませんが、片付けが大変なので、そのくらいに……」
「んー。足りるかな。まあやってみようか」
そういって、ムズさんは懐に手を入れる。
取り出したのは、小型の拡大鏡だった。
「そういえばまだ見せたことがなかったね。アクト少年、これは探偵七つ道具の1つ、探偵拡大鏡だよ」
「探偵七つ道具?」
「ワクワクするでしょ? 他のアイテムはまたいづれ紹介するよ」
ムズさんは片目を閉じて拡大鏡を覗き込む。
「87%か。もう少しだね」
そうしてまた、そこら中の物を山に追加していった。
「それから、聞き取り調査もやろう。なるべく多くの人に聞いてみたい。今日は誰が居るんだっけ?」
「カイとジュンがいますね。マキさんは今は町へ出てますし、メイアさんは什宝の研究に没頭しているのであまり話しかけないほうがいいかと」
奴隷兼学生であったカイ、ジュン、マキさんはすでに、奴隷の身分を解かれている。
現状、ニナさんがいなければダンジョン攻略をすすめることはできない。
ニナさんがいない間、待たせ続けても仕方がないし、ドデカワニを倒して区切りもついたということで、奴隷から開放される運びとなった。
カイとジュンは31歳、マキさんはもう44歳。今は必要な時だけ協力を頼み、普段は自由に過ごしてもらっている。
僕はくつろいでるカイとジュンを強引に連れてきた。
ムズさんが聞き取りを始める。
「カイさん。事件当時は何されてましたか?」
「事件って、なんの話? いつ?」
「ふむふむ。あくまでシラを切る、と」
ムズさんが手帳にメモを取る。探偵七つ道具の探偵手帳だそうだ。
「ジュンさんは?」
「俺も何も知らないが……」
「ムズさん、事の顛末を説明しないと。ほんとに知らないだけだと思いますよ」
僕は思わず口を挟む。
「いいんだよ。一流の探偵は、一見なんの変哲もない会話からも、表情や声の調子から情報を得るものさ」
僕は時々、ムズさんの言っていることが冗談なのか分からない。
「おいおい、なに散らかしてんだ。お、カイとジュンもいるのか」
騒ぎを聞きつけ、ニナさんとノエルさんがやってきた。
「ごめんなさい、ムズさんを止められなくて」
部屋は乱れて、かなり悲惨な状況だ。
「いいところに来たね。謎解きの準備ができたよ。うん。103%だ。それと一応、シーツも持ってきておこう」
ムズさんが拡大鏡を覗き込みながらいう。
「ムズさん、さっきからその数字はいったい?」
「この探偵拡大鏡はね。真実を復元するための材料が、どれだけ揃っているかを調べる道具なんだ。証拠が集まり数値が100%を超えれば、理論上、必ず謎は解ける。どんな謎でも、ね」
そういうと、目をキラリと光らせる。
「あとの調理が探偵の腕の見せ所というわけさ」
決め顔でそう言ったムズさんに、僕は少し、恐怖を感じた。
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