51歳ー2
「この部屋には、謎が隠されている!」
突如現れたロボット探偵のムズさんは、なんだか日常に馴染んでいる。
ニナさんによると、特に害はなさそうなので自由にさせておくことにしたらしい。
普段は、拠点をうろちょろしているか、電池が切れたように倉庫の隅でじっと体育座りをしているかのどちらかだ。倉庫にいると落ち着くらしい。その気持ちは少しわかる。
「謎ですか?」
おしゃべりが好きなようで、ムズさんは退屈すると、よく僕のところに来る。忙しくなければ相手をしてあげている。
「そう! 一流の探偵は推理だけではだめなのだよ。謎にたどり着く嗅覚。探偵に必要な才能だね」
誇らしげな顔をしている。ロボットなのに、表情が豊かだ。ちなみにムズさんは出会ってから一度も探偵らしいことをしていない。
「ムズさんはロボットなのに、人間みたいに匂いが分かるんですか?」
「答えは『分からない』だ。私は匂いっぽいものを感知できる。だが、人間として匂いを感知したことがないので、同じものかは分からない」
「あはは、興味深いですね」
「そうかね。私は哲学的な問いにはあまり興味がないのだけど。探偵が求める真実は現実の事象のみなのだよ」
前後につばの付いた帽子を指でクルクルと回しながら、退屈そうに言った。
「それで、謎というのは?」
「ああ! アクト少年。なにか困り事があるだろう? この超絶美少女名探偵ロボットが解決してあげるから、話してみなさい」
「え、いや。別にないですけど……」
「そんなはずはない。いいから、謎を教えてくれ」
「本当にないですよ」
「そこをなんとか! 暇で暇で死にそうなんだ!」
「暇つぶしを探してたんですね。ロボットだから死なないでしょうに」
謎にたどり着く嗅覚とはなんだったのだろうか。
「謎を探してる?」
ニナさんは首をかしげる。
結局、ムズさんの暇つぶしに付き合ってあげることにした。僕は押しに弱い。ニナさんとノエルさんのもとへ訪れた。
ノエルさんは現在、肉体年齢が21歳ほど。『分身』した片割れは旅を続けているらしい。
今は先生の仕事がないので、子供の姿のニナさんの研究をサポートをしている。
男の子になったニナさんを見て母性がくすぐられたのか、べったりである。ニナさんは少し煩わしそうにしている。
「はい。なにか困りごととかありませんか?」
「この超絶美少女名探偵ロボットのンームズがサクッと解決して見せるよ!」
「では、私でもいいですか?」
ノエルさんが挙手した。
「実は先日、不思議なことがありまして」
ノエルさんが怪談のように語る。
「その日の朝、私がいつものように、ニナちゃんの布団に潜り込みました。ニナちゃんは一緒に寝ようとすると暑苦しいと言って嫌がるのです。ニナちゃんはいつもそうです。8年も会えなかったのに、本当はニナちゃんも寂しいはずなのに。
ニナちゃんに拒絶されるのは嫌なので、ニナちゃんが起きたあとの布団に潜り込み、ニナちゃんの温もりをこっそり味わうのが日課なのです。
ですが、そこにはいつもと違う光景が広がっていました。僅かですが、シーツに黄色いシミ。毎日欠かさずチェックしていた私に、この変化は一目瞭然でした。
8歳なのにおねしょしちゃったなんて、かわいい。そう思ってニナちゃんに聞いてみたのですが、ニナちゃんはおねしょなんてしてないの一点張り。
恥ずかしいことではないのに、ニナちゃんは認めたがらない。ですから、探偵さん。ニナちゃんのおねしょの証拠を集めて、どうか真実を突き止めてください」
ニナさんは呆れた表情で聞いている。一方、ムズさんは興味しんしんの様子。
「任された! 美少女探偵ファイルエピソード1『おねしょの謎を追え!』だね!」
そうして、ムズさんは証拠を集めに飛び出した。僕を連れて。巻き込まないでください。
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