私見ですが、異世界モノの神髄とは借景にある、と思っています。「ああ、アレね」といかに思うか思わされるか、ということですね。この作品もまた、最近では厚労省のパブにも使われたあの猫たちが、ヘロヘロになりながらワラワラと働くその姿が、そうとは明言されていないのに読者の脳裏に浮かぶのです。
さらに。そのような借景をネタとする方式には「それだけでも面白いけど、よく知っていればなお面白い」という効果もあるのです。この作品では建築現場ネタがそのひとつですね。セコカンを持ってる私(さりげないマウント)としては、もう涙が出るほどゲラゲラ笑えたのでした。その涙は笑いだけの涙ではないけどね……
いま塩飴なめて頑張ってるかたと、あの猫たちに魅かれるかたにお勧め。
32読/32完にてレビュー。
ルタカ王国の威信を賭けたスタジアム建設。そこで最も貢献した王子を王位継承者とする。現国王の勅令により、割り振られた区画で現場監督することになった主人公の第22王子ケンは、兄王子たちの不興を買わないように、とことんまで現場の工員に優しくして、工事の進捗を遅らせようとするが……。
炎天下の工事現場で現場監督になった底辺王子が、異世界の建築の常識を覆して成り上がっていく展開が愉快です。
監督を任された王子たちは工員が熱中症や事故で亡くなってもお構いなく、奴隷のように働かせるばかり。当然、そんな劣悪な環境では効率もやる気も上がるはずがありません。
しかしケン王子の担当区画だけは水分補給と休憩が許され、事故防止と安全管理が徹底された結果、労災が激減! ケン王子に感謝する工員の努力で効率が爆上がり! 王位継承レースのトップに躍り出ていくのです。
ケン王子も、わざと負けるために手間を重ねているのにどうして効率が上がるか、自分でも理解してない点がコミカルなんですよ。
王になる気はないケン王子ですが、工員たちと一緒に汗を流して働くうちに次第に彼らを守りたい気持ちが湧いてくる。建設が進むうちに王としても成長していくケン王子の改革に注目です。
(「暑い夏こそ水分補給」4選/文=愛咲優詩)