第7話 勇者、囲まれる




「はぁ、はぁ、今のはヤバかった!!」



 まだ抱きしめられた時のフレイディーテの肌の感触が残っている。


 大きくてふわふわのスイカおっぱい……。


 何故か惜しいことをしたような気がするものの、あのままではきっと僕は理性を失い、獣となって堕ちていたかも知れない。


 多分、これで良かったはず。



「ちょっとソーマくん!? どうしたの!?」



 テリスが心配そうに駆け寄ってくる。


 どうやら僕は、再び彼女の住む教会に来てしまったらしい。


 ここで祈りを捧げたせいだろうか。



「はぁ、はぁ、テリス……。えっと、実は――」



 僕は呼吸を整えながら、テリスに事の顛末を全て話した。


 すると、テリスは顔を俯かせる。



「そう、そうなのね」


「テリス……?」


「ごめんなさい、ソーマくん」


「え?」



 その時、教会の中へ武装した無数の騎士たちがなだれ込んできた。 

 ヴァレンティヌス王国の騎士たちである。


 なぜ僕がここにいることがバレたのか。犯人の心当たりは一人しかいない。



「ちょ、テリス!? 僕のこと売ったの!?」


「だって仕方ないじゃない!! 貴方が戻ってくる前に神託があったの!! 『勇者ソーマをママの子にして夫とする』って!! なに? ママって何の話!?」


「それはそうだね!! なんかゴメン!! いや、僕が謝ることでもないんだけど!!」



 僕とフレイディーテの会話を知らないテリスからすれば、全く意味が分からない神託だろう。

 いや、本人と会話してた僕にも意味が分かってないんだけどね。



「でも女神様がお決めになったのであれば、私は従うしかない。ソーマくん、大人しく女神様の子になって、夫になりなさい!!」


「そうだぞ、ソーマ!!」



 騎士たちの中に、見覚えのある人物がいた。


 ヴァレンティヌス王国の女王、クラウディアその人である。

 綺麗な金髪をポニーテールにしており、戦装束の鎧と相まって、凛々しい雰囲気をまとっていた。


 しかし、その表情はちっとも凛々しくない。


 欲望丸出しというか、鼻の下を伸ばして「あ、こいつエロいこと考えてんな」って顔をしている。



「本来ならば余の夫にしたいところであったが、相手は女神。いくら余でも勝ち目は無いだろう。しかし、我らが母なる神は『子の恋を応援する』とも言った!! そうであるな、聖女テリス殿!!」


「はい。間違いありません」


「つまり!! そなたが余を好きになればラブラブチュッチュッなドスケベライフも夢ではない!!」


「あんたホントに女王か?」


「今は一人の女である!!」


「なら騎士なんて国家権力の象徴みたいな武装集団を引き連れて来るな!!」



 僕はもう、クラウディアに対して敬語を使う余裕すらなかった。


 ぐぬぬぬ、まずいぞ!!


 さっきフレイディーテから逃れるために聖剣の力を使ってしまったから、この包囲を突破するのは骨が折れる。



「さあ!! 大人しくチ◯コを差し出せ!! 余とラブラブしようではないか!! 子供は最低でも十人は欲しいな!!」


「くっ、こうなったら!!」



 僕は聖剣を構え、クラウディアに向かって突進。



「ふっ、苦し紛れの突貫か!! その程度で突破できると思われているのであれば心外だぞ、ソーマ!!」



 クラウディアは女王だが、一流の剣士でもある。


 僕に剣術を教えたのはクラウディアだし、その実力は嫌というほど分かっているつもりだ。


 だからこそ、無策では挑まない。



「策はありますよ!!」



 僕はクラウディアが振るう剣と鍔迫り合いを――することはなく、彼女の剣を躱して背後に回り込み、羽交い締めにした。


 そして、クラウディアの喉元に聖剣の刃を軽く当てる。


 とても勇者のすることではないが、今はこうするしかない!!



「動くな!! 動いたらクラウディアが怪我をするぞ!!」


「勇者様!! 人質とは卑怯ですぞ!!」


「集団で一人を捕まえようとするあんたらが言うな!!」


「くっ、正論ですね!!」



 騎士たちにも少し思うところがあったのか、動きが鈍る。


 しかし、すぐに主君を救おうと剣の柄を握った。



「陛下、今お助けします!!」


「お構いなく」


「「……え?」」



 僕と騎士の反応が被った。



「お構いなく。ああ、ソーマの逞しい腕が、余の身体を締めつけて、あふっ、良い!! よく分からんが、何故かこのシチュエーションは良い!! ソーマ、もっと強く締めてくれ!! 首の辺りとかどうだ? こう、腕を回してキュッと軽く締めてみてくれ!!」


「へ、陛下!?」


「すまぬ。余は知らなかった。愛する男をめちゃくちゃにしてやりたいと思っていたが、余はされる方が好きだったようだ。さ、さあ、ソーマ。次はどうする!? どんなことをしてくれるんだ!?」



 僕の腕に頬ずりしながらうっとりした表情を見せるクラウディア。


 こ、この女王、土壇場でマゾに目覚めたの!?

 い、いや、良い。抵抗する気が無いなら、利用してやるまで!!



「お、おら!! 女王に怪我をさせたくなかったら道を開けろ!! あと馬を連れて来い!!」


「わ、分かった!! すぐに用意する!!」


「お構いなく」



 まるで銀行強盗が警察に逃走用の車を用意させるような台詞だが、気にしない。


 クラウディアが何か言ってるのも気にしない。



「嗚呼。余は爽やかに微笑むソーマも好きだが、まるで盗賊のようなソーマも良い……」


「ちょっと黙っててくれませんかね!?」


「攫われた挙げ句、根城で滅茶苦茶にされたい。男盗賊のソーマに無理矢理というのも――」



 この女王、ちょっとメンタルが鋼過ぎる。人の話を聞いちゃあいない。


 しばらくして、僕の要求に答えるように騎士の一人が馬を連れてやって来た。


 僕は馬に跨がり、クラウディアを解放する。

 こっちの世界に来てすぐに乗馬を覚えたのは正解だったね。


 馬の手綱を握って、一気に駆け出す。



「くっ、逃がすな!! 追え!!」



 騎士たちが追ってくるものの、身軽な僕とフル装備の騎士たちとでは機動力に差が出る。


 小一時間ほどで騎士たちの追跡を撒いた。



「はぁ、はぁ、はぁ……。今回も危なかったな」



 僕は森をもう少しで出るというところで、休憩を取ることにした。


 休めるタイミングで休まないと。


 幸い、騎士たちは慌てていたのか、馬の鞍に物資を乗せたままになっていた。

 革の水筒を取り出し、ごくごくと一気に呷る。



「ぷはぁ……。さて、どうしようかな」



 もう、故郷には帰れない。


 この世界の女神であるフレイディーテが、僕を逃さないと宣言したのだ。

 これから先、僕は世界中の国々から追われるかも知れない。


 現実的に考えれば、無駄な抵抗はせずに諦めてしまった方が多分ずっと楽だろう。


 嫌な考えが脳裏をよぎる。

 僕はこのまま、この世界で一生を終えてしまうのではないか。


 クラウディアたちに捕まり、フレイディーテの子となり、夫にされてしまうのではないか。


 そうなったら、僕は実るかどうかも分からない初恋よりも、目の前にある確かな愛を優先してしまうかも知れない。


 ……いや、いいや。



「諦めないぞ」



 僕は勇者だ。


 どんな状況でも、勇者なら諦めない。

 こうなったら自力で元の世界へ帰還する方法を見つけてやる。


 そして、あの初恋のお姉さんへ会いに行って、好きだと叫ぶのだ。



「よし、行こう」



 僕は馬に跨がり、森を出た先にある草原を進むのであった。

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この貞操逆転異世界の少女たちは勇者のチ◯コを狙っている。 ナガワ ヒイロ @igana0510

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