16話 鍵師という生き物



翌日。オレは国王様と共に保管庫まで来ていた。


そう……二人きり。

もちろん、外に見張りの騎士達が居るが、保管庫が置かれている部屋では国王様とオレだけだという状況だ。



「昨日話していた通り、保管庫の中身について話そう」


「あ、はい...」



昨日のパーティにて、オレはこの話題から逃げられない事を既に知っている。

だから今回は、大人しく国王様の話に耳を傾ける事にした。



「あの保管庫に入っていた杖は、はるか昔に女神様によって与えられた杖なのだ」


「女神様……ってあの女神様ですか?」


「あぁ。”あの”女神様だ」



かつてこの国は……と言うか、世界は何も無いただの陸地だった。

そんな世界を寂しく思った女神様が自然と生命を生み出した。


これは誰もが知るおとぎ話である。

しかし、ほとんどの人達はこれはただのおとぎ話だと思っている。実際、オレだってそうだ。幼い頃、まだ親父に引き取られる前、シスターが話していた事を記憶している。けど、正直な所信じてはいなかった。女神様の存在なんて。


だが国王陛下は、この世界を作り上げた女神様がこの国に保管庫に保管されていた杖を与えたと仰っている。


じゃあ、実際に女神様は存在していた…という事になる。



「信じられない。という顔をしているな」


「そうですね。子供の頃に誰もが聞かされるおとぎ話としか思っていなかったので」


「まぁ、最初は誰もが君と同じ反応をするよ。けど、これは事実なんだ。証拠にその時の事を綴った記録書や女神様からの手紙も残っている。見るかい?」


「見せてもらえるのなら」



正直まだ信じ難いが、そんな凄いものが残っていると言うのなら是非お目にかかりたい。


オレが頷けば、国王陛下は満足気に笑い、隅で待機していた騎士に合図を出す。

そうすれば騎士が一つの箱を持ってきた。

随分古びた箱だ。


国王陛下はそれを受け取ると、中からこれまた分厚い本と封筒を取り出す。



「中はこんな感じになっているよ」



そう言って国王陛下は本を開いて、オレに見せるが生憎内容がわかる程出来た脳みそをオレは持ち合わせていない。

それに何より文字が全然違う。

所謂昔の文字で、読める訳が無かった。



「君にはまだ早かったかな」



そう言って豪快に白い歯を見せて笑う国王陛下。

この人…絶対に読めないって分かってて見せただろ。


国王陛下も案外悪戯をする子供の様な一面があるんだな、と思いつつオレは今度は封筒の方へと視線を向ける。



一見、普通の封筒の様に見えるが…



「君にも感じるかい? この封筒から感じる異質な魔力を」


「…はい。封筒に保護魔法が込められていますね。今まで防犯対策の相談をされる事が多かったので、多くの保護魔法を見てきましたが……初めてです。こんな完璧な鍵は」



オレは思わずゴクリと息をのんだ。

防犯対策の相談をしてくる依頼主達の多くは、皆保護魔法を使い防犯対策を行っていた。しかし、魔導師でも無い人が行った防御魔法は脆くて、直ぐに壊れてしまう。

だが、これは違う。

と言うか、親父が作った錠前以外で初めてだった。……解錠出来ない。そう思ったのは。



「…女神様の存在を信じてくれたかい?」


「確かに人間の作り出す保護魔法とは格段に違うので信じるしかないですよ、これは。因みにこんなに強い保護魔法が掛けられていますけど、中身を読んだことは…」



オレの問に国王陛下は笑った。

……もしかして、無いのか?



オレは国王陛下から再度手紙へと視線を移す。



鍵師というものは、

開けれない物程開けたくなる。

秘密ほど暴きたくなる。

そんな生き物だ。


そう親父が言っていた。




ほんと、その通りだなと思った。

オレもこの手紙にかけられた#保護魔法__鍵__#を解錠をしたくて堪らないのだから。




「……似るもんだね」


「え?」


「ん?」



国王陛下は笑った。

何か陛下が仰っていた様な気がしたが……気のせいか?


まぁ、陛下の反応からしてオレの空耳だろう。



オレはそう結論づけ、女神様が張ったとされる保護魔法が掛けられた手紙を再度見つめた。

完璧な#鍵__保護魔法__#が掛けられた手紙。

鍵師として解錠したくてうずうずしてきた。



「それで君に依頼がある」


「も、もしかして!?」


「その、もしかしてだ。君にはこの女神様からの手紙に掛けられた防御魔法を解いて欲しいんだ」



解錠してみたくてうずうずしていた矢先の依頼。

思わずガッツポーズしたくなったが、オレは堪える。

親父の作った錠前以外でこうも解錠するのに興奮を覚えたのは初めてだ。


オレは女神様の手紙を見つめながら、解錠の仕方を考える。

……マスターキーは魔法を無効化する力があると記してあった。けど、この手紙にかけられた保護魔法は解錠出来る気が全くしない。

恐らく、この世界のモノではないモノが施した魔法だからマスターキーが使えないのかもしれない。


そう言えば、オレのステータスを見て【最強】だと誰かが言っていた。

…何が最強だよ。

全然じゃないか。



「それで、解けそうかい?」


「お時間を有するかもしれませんが、引き受けさせて下さい。オレはまだ鍵師として腕前はまだまだです。しかし、絶対に解錠してみせます! 無理を言っているのは承知です! 解錠出来る保証もないのに引き受けたい、なんて…」


「では任せよう。期限は特にないからゆっくり解錠してくれても構わないよ」



案外すんなりと承諾する国王様にオレは目を瞬かせる。

どうやら特に急ぎでもないらしい。

まぁ……長年封を切られることなく保管されていたのなら、そりゃあそうか。


でも、親父ならきっと直ぐに解錠出来たんだろうなぁ…。

そう考えたら自分の腕前はまだまだなんだと痛感する。いずれは親父と同じくらい…いや、親父の腕を上回る様な鍵師になる。

そうすればきっと、この女神様の手紙を解錠出来る様になるだろう。


と、なれば先ずは鍵師として腕を磨かこう。

この手紙にかけられた魔法を解錠出来る程の鍵師になる為に。


国王様から手紙の解錠の依頼。

そしてその後、王城の全ての鍵の新調も依頼された。王城にはとにかく広い。一体どれだけの鍵を作る事になるのか……。

考えただけで体が震えた。

けど、乗り越えたその先には女神様からの手紙を解錠出来る力が身に付いているかもしれない。

そんな未来の自分の姿を思うだけで気合が入った。




それからオレは国王様に挨拶をした後、工房へと急いだ。

一刻も早く鍵を作りたくて。

少しでも疎かにすれば簡単に手は鈍ってしまう。上達への近道なんてものは無い。ひたすらに作って、試めすのみだ。


そうやる気が満ち溢れている筈なのに何故か急に睡魔に襲われた。歩くのも困難な程の睡魔にだ。



「……なんで急にこん、な…」



そう言えば今日も疲れたな…。

早く部屋に戻って仮眠を取ろう。



気づけばオレは完全に意識を手放していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王国が求めている人材は魔導師じゃなくて【鍵師】らしい~今更戻ってこい? オレは称号【鍵の皇帝】で第二の人生始めるので関係ない!~ 流雲青人 @14775050

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る