第一話 少女は英雄になりたい


 ボクは昔から英雄が好きだった。どんなピンチや逆境を跳ね返す、そんな力を持った英雄が。

 

 だけどボクが生まれたのは現代で、ボクが憧れた英雄を必要としない時代だった。

 

 けれど、ボクは諦めきれず身体を鍛え、頭に様々な知識を詰め込み、少しでも神話の英雄達に近づけるように努力した。でも駄目だった。

 

 もちろん親や友達、先生からは称賛されたし様々な賞も貰った。

 

 でも、ボクは満たされなかった。違うんだよ。そうじゃないんだよ。確かに皆に称賛されると嬉しかった。でもこれは違うんだ。

 

 ボクの記録はいずれ、いや直ぐに抜かれるだろう。なぜならボクが残した記録はしっかりと努力し、数をこなせば誰でも到達しうる記録なのだから。

 

 だがこれは当たり前の事だ。人の世は時間を掛ければ掛けるだけ一つの物事を研究し理解を経て、最適化される。どんなに凄い記録でも何十年と言う時間を掛ければ記録を更新される事の方が多いだろう。

 

 でも英雄は違う。古代の神話の英雄達は現代まで何千年と語り継がれ、なおかつ未だにその身一つで打ち立てた栄誉や偉業は覆される事はない。

 

 ボクはそうなりたい。世界を救いたいとか、皆の為にとかそんな大それた考えはない。ただ後世の人々に絶対に抜けないって、これは偉業だって認められたいだけなんだ。自分でも矛盾した事を言っているのは分かる。

 

 でもこれは、これだけはボクは譲れない。今更この考えは曲げられない。バカだろうと、何だろうと言われても。

 

 もっとも現実は中々に非情で、ボクは未だ偉業を成しえないまま17歳になった。高校ニ年生だ。

 

 ボクは高校2年生は人生の岐路だと思っている。高校2年生というのは大学進学にしろ、就職にしろ、今後の生き方を決めなければいけない重要な時期だ。その上、比較的に自由に過ごせる最後の時間だと言っていい。

 

 だからボクは焦っている。なにも成せない自分に歯痒さや苛立ちを感じながら。

 

 そんな時に、友人である紅月あかつきあおいからあるゲームを勧められた。

 

      『DifferentディファレントWorldワールドOnlineオンライン

                

 通称、DWOというゲームだ。調べてみた所、このゲームは脳波を読み取ってまるで現実世界と遜色無いぐらいに五感を再現する次世代型VRゲーム機専用ソフトのようで内容は自身でキャラクターを作成し、その世界で戦うのも良し、物を作ったりしてまったり過ごしても良しの自由度の高いゲームだ。

 

 ちなみにジャンルはVRMMORPGだそうだ。

 

 ボクは興味を持ったので学校帰りに、店に寄って本体とソフトの両方を購入した。結構高くってボクのお年玉貯金がだいぶ減ってしまった。しめて7万5千円。でもセット割で2千円位安くなってるから高くても少し得した気分だ。

 別々で買うと、本体が7万円(税込)、ソフトが6,980円(税込)するみたいだからね。

 

 さて、帰宅したボクは早速、本体のセットアップをしながら『Different World Online』の説明書を読んでいる。

 

「なになに、このゲームは、貴方にとってもう一つの世界です。膨大なスキルに感情豊かなAIを搭載したNPC。現実にも見劣りしないグラフィック。そしてオンリーワンなクエストも多数存在します。これにより自分だけのプレイスタイルを確立して下さい。」

 

 なるほど、見た感じ凄そうだな。

 

「このゲームでは魔王や勇者。王様や英雄にだってなれます。このゲームは自由です。プレイヤー1人1人が主役になれるゲームです。ですので心ゆくまでお楽しみください。か」

 

 そうか、そうか、そうか!このゲームなら英雄になれるのか!やばい、鼓動が早くなって興奮してきた。こんなに心踊るのはいつぶりだろうか?早くこのゲームをやらなくては!


 ボクは絶対にこのゲームの世界で英雄として、誰もが成し得ない偉業を成し遂げよう!と決心した。


 ボクは、はやる気持ちを抑えながらセットアップの終わった本体にソフトを挿し込み、ゲーム機を頭に被り、ゲームの音声認証コードを口にした。

 

「ゲーム、コネクト!」

 

 そして、ボク、白柳しろやなぎ夜永やえはこのゲームにログインした。

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夢を見る少女の英雄譚 黒玲白麗 @sharurau

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