第7話 つぎは誰?
アメンボは手を小さく叩きながら、雲の下の小学校を見ていました。
「ほら私の勝ちですね。1週間どころが、金、土、日、月、火、だからたった五日、たったの五日でみんなに”雨が好き”と言わせたんですよ」
アメンボは、ほこらしげです。
「確かに下の子供たちは、”雨大好き”と大合唱してるよ。だからあんたの勝ち。そうかもしれないけど、私はなんか気持ちが悪いねえ。なんでかねえ。そうそう、道具を使うのは反則じゃないかい」
雪姫の口が少し大きくなりました。
「そうだ。俺もなんか負けた気がしない。アメンボ、お前はずるいぞ。道具を使うのはずるいぞ」
ボスの顔が、だんだん大きく赤くなってきました。真っ赤になったら、ボスの雷が落ちてきてしまいます。
あとずさりしながら、アメンボは勇気を出して、そして思い切り胸を張って言いました。
「で、ですが、“道具を使ってはいけない”というルールはなかったのですから。負けは負けだと認めてくれませんか」
アメンボの勢いと、やはり負けは負けと思っていたのか、ボスの顔も雪姫の口も小さくなっていきました。
それでもまだ悔しそうな雪姫です。
「けどねえ、道具がなくなったら、あの子たちは雨が嫌いになるわよ。今度雨が降ってきたら、また”雨、大キライ”って叫び出すから」
口が大きくなっていない雪姫は、ただ綺麗なだけなので、アメンボは胸を張って、そして背伸びして言いました。
「いいえ。これからは雨が降るたび、子供たちは、何かすごい事が起こるのじゃないかって、ワクワクすると思います」
「いやに自信あるのね」
まだ「雨大好き」と叫んでいる子どもたちを、ボスは不思議そうに眺めています。
「雪姫よ、アメンボの言うことは正しいかもしれん」
「そしてですね、大人になれば、雨はつまらないけど大切だということがわかって、そのうち子供の時に雨が嫌いだったことも、忘れちゃいますよ。あっ、あっ。それから、それからですね、さっきからずっとアメンボ、アメンボと私を呼んでいますけど、”かけ”に負けたのですから、約束通り私を呼んでください」
ボスと雪姫は顔を見合わせています。
どちらが先に言うか、待っているようです。
アメンボは二人をにらみます。
「しょうがないわねえ」
「しょうがない、しょうがない」
ボスと雪姫は、アメンボに向かって、恥ずかしそうに言いました。
「雨神様」
「すみません、よく聞こえませんでした。もう一度大きな声で言ってもらえますか。約束ですからね」
ボスと雪姫は一瞬むっとした顔になりましたが、神様が約束をやぶるわけにはいきません。
「あめ、あめ、雨神様。雨神様あああああ」
きっとこんな風に呼んでくれるのも、今だけでしょう。
それでもアメンボは、気持ちよくてたまりませんでした。
雲の下から太郎たちの「雨大好き」が、まだ聞こえてきます。
「それにしても、みんながこんなに喜んでくれるとはなあ」
アメンボは手元にある石を、大事そうに何度もなでました。
「また誰かのところに落としてみるかな、太郎君が名前をつけてくれた、この”雨スイッチ”」
アメンボの後ろで、ボスと雪姫がこそこそと話しています。
「俺もな。雷をもっと好きになる道具をもっているんだよ。アメンボ、いや雨神様みたいに、これを落としてみるかなあ。ただし、使い方を間違えると電気ショックで大変なことになる。流石にそれはまずいしなあ」
「あら、危ない。そんなもの落としちゃダメよ。そんなものより、雪でもっと遊べる道具があるのよ。子供だけじゃなくて、大人だって…」
おしまい
雨スイッチ nobuotto @nobuotto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます