第8話 したい?!

 いつもの定位置、俺の布団の隣の布団で眠っていたはずの彼女が、突然コロコロと転がりながら俺の布団の中に入り込み、ピタッと体を寄せてきた。


「……したい」


 眠りに落ちる寸前の俺の耳元で、彼女が小さく震える声で囁く。


「したい……いっぱい」


 俺は話が耳を疑った。


 マジか?!

 今確かに、「したい」って言ったよな?しかも、「いっぱい」って!

 キターッ!

 やっと俺、初めて、彼女から誘われたっ!


 襲いかかってきていた睡魔を気力で吹っ飛ばすと、俺は彼女の体をギュッと抱きしめる。


「うん」


 すると、彼女も腕を回して俺に縋り付いてくる。


 一気に高まる熱と心拍数。

 この機を逃すまいと彼女に口づけようとした途端。


「怖かった……」


 やはり、小さく震える声で彼女が囁く。


 えっ?

 怖かっ、た……?

 ん?

 俺を誘うのがか?

 いやいや、そんな訳無いだろ。

 しかも、こんなに震えるほど……あれ?


「えっと……何の話?」

「夢、見てたの。そしたらね、たくさん死体がっ」


 そう言って彼女は、さらにギュッと俺にしがみついてくる。


 そっちかーいっ!


 と、心の中で自分自身に盛大なツッコミを入れる俺。


「大丈夫大丈夫。怖い夢なんてバクにくれてやれ」


 正直ガッカリしながらも、ヨシヨシ、と宥めるように、震える彼女の背中をしばらくの間擦ってやった。

 彼女は怖がりなくせに、ゾンビ映画なんかを好んで観る。止めればいいのに、きっと今日も、寝る間際まで話題のゾンビ映画でもスマホで観ていたのだろう。


「良かった、隣りにいてくれて」


 恥ずかしそうに、彼女が呟く。


「温かくてホッとする」


 ……仕方のないやつだ。

 けど、こんな風に俺に縋って来る彼女が、可愛くて仕方ない。


 いつの間にか俺の手は勝手に、彼女の背中だけでは物足りなくなり、頭や肩のみならず、腰やケツの方にまで伸びていたらしい。


「……なんか」


 彼女が小さく身じろぎながら、僕の腕の中で小さく呟く。


「ん?」

「したい……かも」

「大丈夫だよ、死体はもうない。それは夢だ。また怖い夢見たら俺を起こせばいいから」

「違う。そう、じゃなくて……」


 キュッと俺にしがみつきながら、彼女がモジモジとし始める。その体は気のせいか、いつもよりも熱を帯びているようにも感じて。


 ん?

 あれっ?!

 もしかしてこれはまさかのっ?!


 そっちかーいっ!


 再び心の中で自分自身に盛大なツッコミを入れる俺。

 俺の胸の中から俺を見上げる彼女の目は、熱っぽく潤んでいる。


 よっしゃー!

 これは絶対に、間違いなくアレだよな?!

 今度は。

 今度こそっ!


 俺は彼女を抱きしめる腕に力を込めると、ゆっくりと彼女に顔を近づけた……


 end

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俺の彼女は困ったちゃん 平 遊 @taira_yuu

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