第7話 何故そうなる?!
「よっしゃ、伸るか反るか……」
彼女とのデート兼買い物の帰り。
ガシャポンの中に欲しいアイテムを発見した俺は、彼女に少しだけ待ってもらって百円玉を3枚投入し、そう自分に気合を入れた。
それほど大きな声で言ったつもりは無かったが、俺の言葉を耳にしたらしい彼女が、慌てた様子で顔を赤くして俺の口を手で塞ぐ。
「ちょっと!こんなとこでそんなこと言わないでよっ」
「……は?なんで?」
訳が分からないながらも彼女に睨まれつつガシャっと回したものが当たりのはずもなく、俺はガックリと肩を落としたのだが、そんな俺に構うことなく、彼女はまるで俺から逃げるようにさっさと歩き出す。
「ちょっ?!待てって!なんで置いていくんだよっ!」
「知らないっ!」
何故だか分からないが、どうやら彼女は怒っているようだ。なにか悪いことをしたならばともかくとして、身に覚えもないのに怒られるなんて不愉快極まりない。
せっかくの楽しいデートが台無しだ。
俺は走って追いかけ、彼女を捕まえた。
「なんだよ、何怒ってんだよ?」
「当たり前じゃないっ!あんなに人がいっぱいいる所で、あんな、恥ずかしい言葉言うなんて……」
言いながら彼女はどんどんと顔を赤くし、声もか細くなっていく。
あんな、恥ずかしい言葉?
俺、なんか変な事言っただろうか?
思い返してみても、全く思い当たらない。
だいたい、彼女の言動がおかしくなる直前に俺が言った言葉は、【伸るか反るか】だ。
まさかそれが、恥ずかしい言葉……?
「伸るか反る……むぐっ」
最後まで言い終わらないうちに、彼女の手が俺の口を塞ぐ。
「だからやめてって、言ってるでしょっ!」
興奮気味の彼女の手をそっと口から離し、俺は聞いてみた。
「なんで?これ、そんな恥ずかしがるような言葉じゃねぇぞ?」
「ウソっ!だってそれって……」
言葉を切り、顔を赤くしたまま口を噤んでしまう彼女。
「だって、なんだよ?」
暫くモジモジとしていたが、やがてチョイチョイと俺を手招くと、彼女は周りを気にしながら俺の耳元でとんでもない勘違い説明を始めた。
「女の人が、男の人の上に乗って、あまりに気持ちよくて体が反っちゃうアレのことだ、って聞いたよ?」
はぁっ?
なんじゃそりゃっ?!
彼女には悪いが、俺はその場で吹き出した。
あまりに天然な彼女は、友人からよく騙されてはからかわれているらしい。今回も完全に、友人から騙されたクチだろう。
俺にとってはとんだとばっちりになったが。
しかし、よくもまぁこんな嘘八百を教えるもんだ。
信じる方も信じる方だけどな。
「なによー、違うのっ?!」
あまりに笑い続ける俺に不貞腐れる彼女。
俺は笑いながら、スマホで単語を検索して彼女に見せてやった。
「あっ……」
彼女の顔が、再び朱に染まる。
そんな彼女があまりに可愛すぎて、俺は肩を抱き寄せ耳元で囁いた。
「早いとこ帰って、【乗って、反っちゃう】こと、するか?」
「もうっ……バカっ!」
赤い顔のまま、彼女が八つ当たりのようにペシペシと俺の腕を叩く。
ほんと。
俺の彼女、可愛いヤツ。
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