第8話 二人が終わらせる全ての決着

 色んな情報が一気に入って来て、思考が追い付かない。そんな雄飛ゆうひに対して、美夢みむが告げる。


「来る。あの人……貴方の、お兄さん」


 その言葉を聞いて、雄飛は深く呼吸をし……覚悟を決めた。


昇華顕現しょうかけんげん……銀雪氷雨ぎんせつひさめ!」

 

 変身した雄飛の視界に、蒼い炎を纏った人影が見えた。


(クソ兄貴が! 止めてやる! 絶対に!)


 蒼き者……仁翔まさとは、変身した姿で雄飛の前に降り立った。その雰囲気は威圧感があり、今まで見て来たどの姿よりも恐ろしかった。それでも、勇気を持って雄飛は立ちふさがる。


「お前か。僕の正義を邪魔する奴は」


「何が正義だよ、クソ兄貴」


 声を聞いてようやく相手が誰か理解したらしい。仁翔は大声を上げて笑い、そして襲いかかった。


「愚弟が! 勝てるわけ、ないだろ!」


 蒼い炎の拳を、雄飛が氷の壁を発生させて防ぐ。その氷を砕くように、仁翔が殴り続ける。簡単に割れない事に気づくと、彼は右腕の炎の火力を上げた。


「いけぇ!」


 増幅された蒼い炎が、一気に襲いかかる。氷の壁が崩れたの同時に、雄飛が後退し氷の棘を沢山出現させる。それをかわすと、仁翔が炎を噴射する。互いに譲らない戦い。

 突破口が見いだせないまま、二人の攻防は続く。

 それに終止符を打ったのは……美夢だった。


「これ以上、させない……!」


 美夢の身体が淡く光を帯びる。徐々に眩しさを増して行く中で、雄飛の中の力が溢れる……そんな感覚がした。


(これは? 俺の力が増幅されているのか? でもなんで? 俺に加勢なんて真似を?)


 不思議に思いつつ、雄飛は氷の棘と壁を思い切り仁翔へ向けて放つ。氷に包まれ、動けなくなった仁翔の声が周囲に響く。


「な……で! ぼ、くは……せい、ぎ……なのに!」


「何が正義か? 何が悪か? そんなん時代によって変わるもんだろーが。世の中、絶対なんてもんはねぇ。それだけの事じゃねーの?」


「うる、さ……無能な、おま……なに、が……あ?」


 鈍い音がして、仁翔の方を見ればそこにはあの不可思議な存在がおり、仁翔の胸を貫いていた。


「なっ!?」


 驚き、警戒する雄飛にソレは告げた。


【此度の事は、我が責務。興味とはいえ、人を知らなすぎた】


 ソレが仁翔の胸から手を引き抜くと、結晶を持っていた。真っ黒に輝くその結晶を抜かれた仁翔は、氷が解けたと同時に倒れ込み静かに呟いた。


「僕の……正義は、どこに……あったんだ……?」

 

 ****


 それから。

 仁翔は病院で目を覚ましてから、憑き物がとれたように穏やかになり、かつ、警察に自ら出頭した。母は驚き卒倒していたが、祖母の舞華まいかは雄飛にしか伝わらない涙を流していた。

 結局、英雄ひでおの目指したかった正義とはなんだったのか?

 彼が行った事は、正義だったのか? 悪だったのか?

 それを知る術も、そして、何が正義を為して、何が悪を為すのかも誰にも分らないままだ。

 ……一つだけ言えるのは、正義であろうと悪であろうと、誰かを傷つけていい訳ではない。それだけだ。


「雄飛、おはよう」


「美夢、待たせたな」


 あの日から付き合いはじめた二人の若者は、未来に希望を持って互いに支え合い今を生きる。

 ――正義でも悪でもない、でも、汚いを知るからこそ綺麗を認識出来る。

 そんな世界を、日本という小さな国のとある都市で日々感じながら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪を為すか、正義を為すか 河内三比呂 @kawacimihiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ