第19話 正夢にならぬように
俺がコンビニに買い物にいく最中に、向かい側からある一人の女性が歩いてきた。そして俺の真ん前で止まった。
「海斗、ごめんね。私、見守りきれなかった…。」
俺はなんのことか分からずにびっくりする。当たり前だろう。
俺は尋ねる。
「あのー、どちら様ですか?」
「私は海斗の母親の千秋です。」
「えっ!?」
言葉を失う。
想像もつかない再会だ。
「海斗、ごめんね?私はあなたを捨てたわけじゃないの。守りたかったの。」
「な、何言ってんだよ。」
「あんな父親を持って生まれたあなたが気の毒なの。私がちゃんとあの人の性格を見抜けなかったせいで…。」
「いや別にお母さんを憎んでるわけじゃないぞ?」
「でも私が私を許せないの。」
そう言いながら母親は泣いていた。もう止めどなかった。
俺は母親の背中をさすりながら、公園で話そうと一緒に向かった。
「お母さん、俺は別になんとも思ってないから。父親があんなのだけどお母さんは悪くないって。俺を一人暮らしさせたのはよく分からないけど。」
なんとも思っていないわけではない。でも洸太が言っていたように、お母さんも俺のためにやったのかもしれないのだから。俺はお母さんを完全に敵に回すわけにはいかない。
「私ができるせめてもの母親としての責務だと思ってる。だから私は海斗にはあまり干渉したくないの。海斗には申し訳ないことをしたの。私はもう海斗に干渉する権利はないの。だから私のことは放っておいて。私は私で頑張ってるから。」
「お母さんからその言葉が聞けてよかった。お母さんだけは俺の味方だったの……」
その時だった。
俺のお母さんは低い声で唸って、そのまま地面に倒れ込んだ。
そしてうつ伏せ状態で倒れる。その背中は血だらけだった。
俺は恐る恐る後ろを確認すると、刃物を持った男が一人立っていた。その刃物は赤く血に染まっていた。
「お、おい。お前、誰なんだよ。」
「久しぶりだな、我が子よ。」
「も、もしかして…。」
「前田浩介だよ。」
「なんでお前がここに?」
訳もわからず、俺は刺された母親に寄り添うようにしゃがみ込みながら、父親に尋ねる。
「まぁ、目障りな奴を殺しに来た?とでも言うのかな。」
「俺の母親が目障りだっていうのかよ。」
「そうだ。お前もお前の母親も。二人して目障りだ。」
「なんちゅうやつだよ。」
父親のくせに。俺は呆れてものも言えなくなる。
「いい加減にしろ、クソ親父め。俺の前に二度と現れんじゃねー。」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しするよ。じゃーな、海斗。」
その言葉を聞いた時にはもう母親の血のついた刃物は俺の腹部に刺さっていた。
そして俺はそのまま倒れた。
「…丈夫?海斗君!大丈夫?」
「んぁ…?」
「だ、大丈夫!?海斗君、すごい苦しそうだったけど。」
俺はさっきの出来事が夢だと気づいた。
「あぁ、すごいリアルな夢を見て。それでだいぶヤバいとこまで行ったから。」
「ど、どういうこと?」
「父親が出てきてさぁ。」
「な、なんで!?」
「わからないよ。俺が教えて欲しいくらい。」
俺は夢であったことを朱莉に伝える。
話を聞いた朱莉は心配そうに俺に尋ねる。
「それ正夢になったりしないよね?」
「さぁ?それはわからないよ、俺も。」
朱莉は少し涙を浮かべていた。
「もうこれ以上、海斗君の傷つく姿見たくないよ…。」
「俺もこれ以降は朱莉の前では元気でいたいよ。」
「私の前以外でも元気でいてよー!」
朱莉は少し笑みを浮かべつつも、不安そうな表情は変わらない。
「少なくともこうなった以上、俺も母親と話し合ってみたい。そう思ってきた。」
「海斗君がそう決断したなら、私は全力でサポートするから。」
「ありがとう。朱莉。」
俺は朱莉に抱きついた。
どこか不安と恐怖が自分の心の中であるのだ。そんな不安も恐怖も朱莉がそばにいるだけで和らいでくれる気がする。いや、絶対に和らいでいる。
朱莉の優しさにどっぷりと浸かってしまうのはいけないのかもしれないけど、でもやはり朱莉に支えてもらっていないと生きていけないかもと、思い始めた。
元カノの姉と付き合うことが一番幸せだと気づいた件について。 マリウス @mariusu_202010
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