第3話 VSモササウルス

翌日午後三時。


約束の時間の五分程前に喫茶店に入ったがマルムちゃんは既に席について待っていた。


あたしはモンブランとカフェオレを注文し、マルムちゃんは苺のショートケーキとブラックコーヒーを注文。

マルムちゃん曰く甘いケーキを最大限に楽しむなら飲み物はブラックコーヒーがベストらしい、大人の女性っぽくてカッコイイ憧れちゃうな。


大人っぽいといえば今日の彼女の服装は昨日と違い青のワンピースだ、私服なのだろうか。

海みたいな匂いの香水を付けてるのも素敵だ、後で本人から教えてもらったんだけどマリンノートという種類らしい。

あたしもどこかで買って付けてみようかな。


雑談を楽しんである程度ケーキと飲み物を味わった後、マルムちゃんは例の件について切り出した。


「単刀直入に言います、未来さんモササウルスはご存じですか?」

「もちろん」

「モササウルスを捕獲する、それが例の件の内容であり今回私達に課せられた使命です」

「ぶふぉっ!」


驚きのあまり口に含んだカフェオレをマルムちゃんの顔にぶちまけてしまった。

わざとじゃないので許して欲しい、本当にごめん。


マルムちゃんは顔をタオルで拭きながら話を続けた。


「…まあ、わざとじゃないでしょうし許しましょう。お気に入りの服が汚れたのはとても残念ですが」

「ごめんごめん、でも驚くのも無理はないよ。だって別名海のティラノって二つ名を持つ古代の海の絶対王者だもん」


モササウルスは恐竜時代の海の頂点捕食者、端的に言えばザトウクジラ並の巨体をした凶暴な化け物だ。

名作映画ジュラ〇ック・ワールドで大活躍したので知ってる人は多いだろう。


あれを捕獲するなんていくら未来人でも容易ではないはず。


「危険なのは私も重々承知です。しかし時空乱流によってここの近くに出現してしまったモサは漁船を破損させたり鯨を食い殺したり被害を既に出しています。幸い死傷者は出ていませんが、早くしなければジェヴォーダンの獣事件のような最悪の事態が起こりかねません」

「時空乱流?ジェヴォーダンの獣?」

「時空乱流は神隠しと言った方がわかりやすいかもしれませんね。別の時代から別の時代に生物が移動してしまう現象です。実はアトランティスの生物は七割が時空乱流で別の時代に迷い込んだところを我々が保護した子なんですよ。ジェヴォーダンの獣はその時空乱流により十八世紀のフランスに出現して大量に人を襲った凶悪な古代生物です」

「へぇ…じゃあ最近アメリカに出現したプテラノドンも時空乱流が原因で?」

「それでしたらうちの捕獲チームがとっくに保護しましたよ」

「あれ本物だったんだ…」

「アメリカのプテラは容易に発見できたのですが、モサの方は難航しています…偵察用ドローンを何台も飛ばしてますが現時点で成果ゼロ…悔しいです」

「…え、じゃあ見つかるまで暇なの?」

「そうなりますね、アトランティスの業務以外は…」

「じゃあさ、それまで一緒に遊ぼうよ!あたしもっとアトランティスの子見たいしマルムちゃんと古生物の話したい!」

「嫌ですよ…カフェオレを人の顔に吹きかける人と一緒に遊ぶなんて…」

「ええぇ」


いやたしかに吹きかけたけどさ…そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃん…わざとじゃないんだし…。


「…ふふ冗談ですよ、同世代の子と過ごす機会が今までなかったので嬉しいですお誘いありがとうございます」


そうだった、この子は冗談大好きだったんだ。

こいつめ~と一瞬思ったが、彼女の無邪気な笑顔を見たらなんかもう全て許せた。


「やったぁ!」


同じ古生物好きの美少女と一緒に過ごせるなんて、今年は最高の夏になりそうだ。



翌日からしばらくあたしはマルムちゃんと夏を思いっきり楽しんだ。


餌やりや掃除などアトランティスで古生物のお世話を手伝ったり、喫茶店でお茶したり。


そうそう、アトランティスは水族館だけでなく豪華客船としての一面もあって内部のプールや温泉やボウリング場やカラオケルームや映画館など様々な施設を一緒に利用させてもらった。


こんな素敵な夏は初めて。


ただ、そんな平和な日々が永遠に続くわけがなく…。


二週間程経った頃だろうか、付近の海に奴が出現したとの情報がアトランティスに入った。



早朝五時。


近場の漁港にあたし、漁師であるあたしの父、マルムちゃん、マルムパパ、そしてペリーちゃんの四人と一匹が集結した。


あたしはまず父の出航準備の手伝いをすることに、するとマルムちゃんのパパが急に話しかけてきた。


「悪いねェお嬢ちゃん、情報提供だけしてもらう予定が一緒に同行してもらうことになってしまって。あと人払いもしてくれたんだっけ?本当に助かるよォ」

「いえいえ大丈夫です!たしか沖縄に巨大鮫メガロドンが突如出現したと思ったらハワイに古代鯨バシロサウルスが現れて捕獲チームが全員出払ってしまったんですよね?仕方がないことです!あたし達でお役に立てるなら頑張らせていただきます!」

「昨日言った通り漁師のお父さんには船の運転、お嬢ちゃんには雑用をしてもらうよォ。な~にそんなに心配しなくても大丈夫、おじさんこう見えて若い頃古生物対策組織BURGESSで一番恐竜の捕獲が上手かったんだ。光の速さで終わらせちゃうよォ~」

「…パパ、それ死亡フラグじゃない?」

「ええ?そうかい?それは怖いねェ~」

「未来さん、父はこんな感じですが実力は本物です。それに私も自分で言うのはなんですが毎日アトランティスの射撃場で練習しているので銃の腕には自信があります。あなたとあなたのお父さんの命はこの私の命に代えても絶対にお守りします!」


そう言っていつもより凛々しい顔をした彼女は麻酔銃を担いで船に乗り込んだ。

かっこいい…。


「ありがとうマルムちゃん、あたし頑張るよ!雑用だけど!」


そして最後のあたしが乗り、船は大海原へと出航した。



出航してから六時間程経過しただろうか。


太陽が昇り切り時刻は昼。


何も進展がないのであたしとあたしの父とマルムパパの三人は昼食を取ることにした。


一方マルムちゃんは麻酔銃を構え、翼竜に乗って空から海上を偵察している。

朝ペリーちゃんを連れてきた時は驚いたが、なるほどこのためか。


そんなことを思いながらおにぎりにかぶりついてると、突然船のレーダーからけたたましく音が鳴った。


「おおっとォ~やっとお出ましかいモサ公」


そう言いマルムパパは麻酔銃を構え、臨戦態勢をとる。


その後重い衝撃。


船が揺れる。


「効くねェ~ではこちらも反撃させてもらおうか、喰らいなァ!」


マルムパパは懐から小型のボール状のモノを数個取り出し、海に投げた。


着水した瞬間それは爆発した、どうやら爆弾だったみたいだ。


だが重い衝撃は止まない、それどころか先ほどよりも勢いが増している。


…!?しまった、衝撃でふらついて体のバランスが崩れる!


このままでは海に…いや、気づいた時にはあたしの体は海に向かって放り出されていた。


あ…やば…あたし終わった…。


「未来さん!足に掴まって下さい!」


その時マルムちゃんの声が頭上で聞こえ、目の前に爬虫類の足が出現する。

あたしは足をがっしり掴んだ、すると空へ空へと上昇する。


「ありがとうマルムちゃんペリーちゃん、本当に助かったよ…」

「いえ、安心するのはまだ早いです未来さん!」


下を見ると某映画で見たまんまの大口を開けたモササウルスがすぐそこまで迫っていた。

まさに危機一髪、もう少しタイミングが遅ければ丸呑されるところだった…。


「…今のは焦ったねェ~だが隙ができた、待ってたぜェこの瞬間を!」


そう言い放ちながら打ち込んだマルムパパの弾丸は見事モササウルスの顔に命中、撃たれた巨体はふらついた。


「マルム!撃てるか?」

「はい!久慈マルム、風穴開けさせていただきます!」


翼竜に指示を出して旋回させ、標的の姿を確認し、麻酔銃を構え、狙い、撃つ。

彼女の弾丸もモササウルスの頭部にヒット、撃たれた白亜紀の海の王者は気を失い深い眠りにつく。


あたし達は嬉しさのあまり強めのハイタッチで喜びを分かち合った。


「やったねマルムちゃん!」

「はい!見事ミッションコンプリートです!」


その後熟睡中のモササウルスをアトランティスに届け、あたし達の戦いは無事終了。


夜はアトランティス内の高級レストランで豪華な食事をいただいた。

なんとマルムパパの奢りで、時間内なら食べ放題飲み放題。

ロブスターの丸焼きなど普段なかなか食べれない豪華な海鮮料理の数々はどれも美味しく、とても楽しい時間を過ごせた。


ある一点を除いて。


それは食事の最中マルムパパに突然かかってきた電話だ。


「なに?鮫と鯨の件は終わった?全員無事?そうか、それは極上だねェ~じゃあこの時代での仕事は完全に終了かねェ~」



深夜。


あたしは自宅の縁側に座り、満月を眺めながら涙を流していた。

せっかくマルムちゃんがお泊りにきているのに、悪いと思っているのに、それでも涙が止まらない。


するとパジャマ姿のマルムちゃんが隣に座り、心配そうな顔で話しかけてきた。


「そんなに泣いてたら可愛い顔が台無しですよ、未来さん」

「…だって未来の世界に帰っちゃうんでしょ?マルムちゃんとお別れなんて嫌だよ、せっかく仲良くなったのに」

「時空乱流によって出現した生物全て捕まえたら即その時代から離れなければいけない、そういう規則です。私も嫌ですよ。未来さんとのお別れ」

「…また会えるかな?」

「会えますよ、未来さんが古生物好きを続けてくれれば」

「あたしさ、学校の勉強全然できなくて赤点常習犯だけどさ。変わろうと思う。いっぱい勉強して古生物学者目指すよ。元々古生物好きだったけど、マルムちゃんのおかげでもっと好きになれた。ありがとう」

「素晴らしい夢です。私も古生物学者になった未来さんにちゃんと顔向けできるよう、立派なアトランティス館長兼船長になります」

「絶対だよ?絶対また会おうね?大親友との約束だよ?」

「はい、絶対。いつか絶対会えます。会いに来ます。大親友との約束ですから」


その後、あたし達二人は抱き合って一晩中ずっと泣き続けた。



翌日昼頃。


あたし、あたしの父、マルムちゃん、マルムパパ、そしてペリーちゃんの四人と一匹が家の近くの堤防に集結した。


集まった理由は二つ。


一つはもちろんお別れの挨拶をするため。


そしてもう一つはあたしの願いを叶えるため。


「…緊急用のパラシュートヨシ!ペリーちゃんの体調ヨシ!未来さんは準備OKですか?」

「OK!」

「ヨシ!では素敵な空の旅へ行ってらっしゃい!」


あたしを乗せた純白の翼竜は天高く飛び上がった。

…すごい、夢みたい!あたしは今、あのプテラノドンに乗っている!



五分程空の散歩を満喫したあたしとペリーちゃんは十分満足し、大きな翼を羽ばたかせ地上に舞い降りた。


「マルムちゃんがペリーちゃんを乗りこなしてるの見て、実はあたし羨ましいと思ってたんだよね。もう悔いはないよ」

「普通は他の人をペリーちゃんに乗せたりしないんですけどね。未来さんは私と背丈ほとんど同じだし、それに大親友の頼みですから」

「…色々な古生物と触れ合わせてくれて、一緒に遊んでくれて、一緒におしゃべりしてくれて、そして最後にプテラに乗せてくれてありがとう。じゃあね。でもマルムちゃん、また会えるよね」

「こちらこそ大親友になってくれてありがとうございます。お元気で。またお会いしましょう」


あたしとマルムちゃんはお互い最高の笑顔で、思いっきりハグをしてお別れの挨拶をした。


その後マルムパパが懐から出した怪しいボールペンにより、あたしとあたしの父は意識を失った。



「ん…」


目を覚ますとそこは見慣れた家の居間。


横には床で寝ている父。


意識を失う前の記憶がない、思い出そうとしても思い出せない。


「…あれ、あたし今まで何してたんだっけ?」



数か月後。


あたしは家にあるプテラノドンの模型を見てふとあの夏の出来事を思い出した。


怖い思いもしたけど、沢山の生きてる古生物を見たり翼竜を乗りこなしたり初めて話の合う大親友ができたりで最高の夏だった。


ただ、その大親友の顔は不思議とどうしても思い出せない何故だろう。


まあいいや、今日も勉強頑張ろっと。





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あたしと未来少女とプテラノドン ASD @Amane-Kyobashi215

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