第2話  Welcome To Atlantis

マルムちゃんに案内されてたどり着いた目的地は水族館だった。


今まで行ったどの水族館よりもデカい。

ぱっと見だが展示している生物の種類が豊富でお客さんもいっぱいだ。


「ようこそ、時空移動型水族船アトランティスへ」


あたしは恐竜好きだが動物や魚も好きで水族館に来たらついついテンションが上がってしまう人種だ。


どの生物を見ようか迷ったが、とりあえず一番近くのにしよう。

水槽に近づいて生物を観察する。

そこにいたのはオウムガイ…いや違う、似ているがこいつは化石で有名なあの生き物だ…!


「え、これアンモナイト…本物…?」

「もちろん本物ですよ、隣には同じ恐竜時代の生物古代亀アーケロンや魚竜イクチオサウルスを展示しています」


そう言われて隣の水槽を見たあたしは驚愕した、化石でしか見たことがない大きさの海亀と大きな目をしたイルカのような生物が大水槽を悠悠自適に泳いでる。


「すごい生きて動いてる…本物だ…うわ!こっちは恐竜より昔に生きてたアノマロカリスに三葉虫…あっちは近世で絶滅したオオウミガラスにステラーカイギュウ…」

「ここでは魚類を中心に古代の水中生物を展示してるんですよ」

「魚類中心って…今まで見たのは頭足類と爬虫類と節足動物と鳥類と哺乳類なんだけど…」

「ちゃんいますよ。ほらこの子なんて立派なお魚さんです、可愛いでしょ?」

「うわっサカバンバスピスがゆるキャラみたいな顔して泳いでる…!」


こんなの絶対にありえない、だってみんなとうの昔に地球上から姿を消した生物ばかり…夢みたい…あ、夢か…。


「夢…これ夢だよ!だってこの魚は人類が生まれる前どころか恐竜が生まれる前に絶滅してるはず!それが目の前泳いでるなんておかしい!常識的にあり得ない!」


そう叫んだ刹那、マルムちゃんの平手打ちがあたしに直撃した。


「痛いでしょ?サカバンバスピスだってちゃんと生きて泳いでるでしょ?あと館内はお静かにお願いしますね?」

「いった…お父さんにもぶたれたことないのに…」


あまりの衝撃にサカバンバスピスみたいな顔になってしまった。

まあ大声出したあたしが悪いんだけど。


「ちなみに私含めここにいる人達は皆未来人です、展示してる子は古生物ですが」

「ええっ…」


マルムちゃん、お願いだからこれ以上あたしを混乱させないでおくれ。


だが頬が痛いし古生物は生きて動いてるし未来にありそうな警備ロボットが巡回してるし…目の前の現実を受け入れるしかないな…うん。


しかし夢にまで見た生きた古生物が目の前にいるのに何かが足りない…あ、恐竜…。


「あ…恐竜!こんなに絶滅動物いるのに恐竜好きとしては恐竜全くいないのちょっと物足りないかな!うん!さっきのプテラも厳密には恐竜じゃないし!」

「恐竜ですか…姉妹船ゴンドワナには沢山いるのですが、この船にいるのは一頭だけですね…ほらあそこの人だかりがあるとこですよ」


あたしは本物の恐竜がいると聞いてワクワクしながら人込みをかき分け近づく。


そこにいた恐竜は歯が鋭くワニのような顔つきをしており、背中にある扇状の巨大な背びれがとても目立っていた。

間違いない、ジュ〇シック・パークIIIで主役に抜擢された超有名恐竜だ。


「スピノサウルス…!」

「はい、スピノサウルスのセベク君です。古代エジプトのナイル川で発見された時現地の人が彼のことをセベク様と崇めていたからセベク君なんですよ」

「でも寝てる…」

「見た目はちょっと怖いですけど大人しい子でいつも寝てるんですよ、でもそろそろ始まる餌の時間は活発に動きますよ」


五分後館内アナウンスと共に大きなマスのような魚がセベク君の寝ている真横の池に大量に放流された。


その瞬間セベク君の目が開眼し、身体を起こして勢いよく池に飛び込み魚に噛り付いた。


なんだろう、あたしは小学生の時に行った旭〇動物園の白熊の展示を思い出した。


「すごいド迫力…あ、本物のスピノって四足歩行で移動するんだ…あと尻尾がオールみたいなんだね…」

「初めて恐竜の狩りを見た感想がそれですか!…でもわかりますよ、映画と本物って結構色々違いますから…」



それから二十分程雑談しながら色々見て回ったが、途中マルムちゃんとは離れることになった。


彼女の話によると今からショーがあると言う、なんと相方はあの純白のプテラノドンらしい。



時刻はまだギリギリ夕方。


あたしは屋外の会場の座席に座りショーを待つことにした。


いつもはもう少し早くショーをするのだがあたしの看病や案内があって遅らせたとか、ごめん。


客席は満席、どうやらこの水族館の目玉はセベク君とこのショーらしい。

スピノとプテラは人気恐竜だし、当然と言えば当然か。


予定開始時間になりアナウンスが鳴った後、なんとマルムちゃんはプテラノドンに乗って現れた。


…え?プテラノドンって乗れるの?


地上に降り立った彼女はまずお客さん達にお辞儀をし、それからショーを開始。

内容は短かったが合図を出して空中を旋回させたり、疑似餌を飛ばしてキャッチさせたりと翼竜を自由自在に操る姿にあたしは圧倒された。

空の怪物プテラノドンを華麗に操るその姿は鷹匠ならぬプテ匠だ。

ショー終了後お客さん達が少なくなったところを見計らってあたしはマルムちゃんに声をかけた、もちろん彼女に質問攻めするためだ。


「マルムちゃんショー…すごかったよ!」

「ありがとうございます。あ、ショーの時にも紹介しましたが改めて…こちらプテラノドンのペリーちゃんです。ほらペリーちゃん、お姉さん勝手に掴んでごめんなさいして下さいね」


そうマルムちゃんが言うと翼竜は頭を下げた。


このプテラ…日本語がわかるのか…!?


「ペリーちゃんよくできました、ご褒美に大好物のアジですよ」

餌に釣られただけか…いやそれでもすごいけど。

「それにしても本物のプテラって人掴んで飛んだり人乗せて飛んだりできるんだね、どちらも不可能だったって学説が有力だと思ってたんだけど…」

「ペリーちゃんは他の翼竜と違うんですよ。他のプテラは未来さんがおっしゃる通り人を持ち上げて飛ぶことも乗せて飛ぶこともできません。でもこの子はできる。多分筋肉の質が他の個体とは違うんだと思います、鬼〇の刃の甘〇寺蜜璃のように」


そう言いながらマルムちゃんは純白の身体を撫でる、翼竜にもやはりあるのだろうかペリーちゃんは目を細めて喜んでいるようだった。


「ふむ、なるほど…?」

「漫画のキャラ以外ならそうですね…某霊長類最強女子レスリング選手でしょうか」

「わかりやすい!」

「全翼竜が集まって素手で殴り合う競技があったら一位はペリーちゃんです」

「ケツァルコアトルスにも勝てるの?」

「いえ、やったことないのでわかりません」

「冗談かい!」

「未来の世界には恐竜保護団体がありますから、無理ですそんな競技」


いきなり冗談を飛ばすなんてマルムちゃん真面目そうな見た目と違って意外とお茶目なんだな、あと漫画好きなのかな。


「あ、話変わるけどお父様と話してた例の件って何?」

「それについてはもう遅いですし明日お話しましょう、お茶しながらとかどうですか?」


そうして次の日、あたしは近くの喫茶店でマルムちゃんとお茶することになった。

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