第3話 暴君竜、襲来

この世界に来てから一週間程経ったある日の昼頃。


あたしとメアリは洞窟内で雑談しながらだらだらと博愛に頼まれた作業をしていた。

するとそこに珍しく焦った様子の博愛が手ぶらで帰ってきた。


「…優里、メアリ。ちょっと来て」

「何よ、博愛さん。そんな吸血鬼に血を吸われた直後のような青ざめた顔をして」


あたしとメアリは不思議な顔をして博愛について行く。


森をかき分け数分歩いて案内された先にあったのは、恐竜の遺体だった。

ぱっと見た感じ大きさはアンキロサウルスやトリケラトプスより一回り小さい程度だろうか。


「メアリ。これ、何だかわかる?」

「…このドーム型の特徴的な頭頂部、恐らくパキケファロサウルスデス。大型の肉食生物に噛み千切られて絶命したと思われマス。惨いデース」

「な、何よ…大型の肉食生物って…まさか…」


直後、ドスンと地響き。


地震!?いや違う、これは生物が歩く振動で地面が振動しているんだ。


巨大な何者かがあたし達に近づいてきている。


「優里、メアリ。隠れて。何か近づいてくる」


博愛に言われて、茂みに隠れる。


見つからないようにしばらく恐竜の遺体を観察していると地響きの主が出現した。


巨大な身体に鋭い歯がびっしりと生えた大きな頭部、それらとは対照的に短すぎる前肢。


間違いない、ティラノサウルスだ。


「すごい…本物のティラノデース…」

「キョロキョロ辺りを見回している。まさか私達の存在に気づいている?嗅覚が鋭いのかな。とりあえずこれはジッとしていた方が賢明かも」


よく二人は小声で話せるな、あたしなんかあまりの恐怖で全く声が出ない。

しかし上手く物陰に隠れたのはいいけどずっとここにいるのも危険な気がする、隙を見て逃げないと。


そして観察し始めて数分程経った頃。


ティラノがようやく警戒を解いて遺体を食べ始めたので、あたし達は博愛の指示の下音を立てないよう慎重にこの場を離れることにした。


もう少し…もう少しでこの恐怖から解放される…。

順調に事が運んでいた、その時。


パキン!

誰かが枝を踏んだ音がした。


「…ソ、ソーリー。やっちまったデース」


この、ドジっ子メアリ~!


音がした直後、ティラノがあたし達の方を向き咆哮をあげた。

やばい、完全に見つかった。


「優里、メアリ!逃げるよ!振り返らないで!全速力!」

「言われなくても逃げるわよ!」

「ティラノはあまり足が速くなかったと言われてマス!しばらく逃げてどこかにまた息をひそめて隠れれば諦めると思うデース!」


そうメアリが言い終わった瞬間。


「アウチ!」


ドジっ子は転んだ。


「メアリ!」


気づいた博愛はすかさずメアリの肩を抱き、そのまま小走りに左方へ逃げ出した。


「…博愛、申し訳ないデス」

「幼い頃父が野生の熊から私を助けてくれた。今度は私が親友を助ける番。メアリ、一緒に逃げるよ!」


まずい完全にティラノは二人に狙いを定めている、必死に逃げているが二人三脚の状態だと速度は出ない。

このままでは追いつかれて食べられてしまう…!


意を決したあたしは近くの木を何度も何度も叩きながら自分が今出せる一番大きな声で叫んだ。


「この頭でっかち手短トカゲ!こっちに来なさい!優等生なあたしの方が美味しいわよ!」

「「…ゆ、優里!?」」

「博愛はサバイバル知識がある!メアリは恐竜に詳しい!この世界で一番いらないのはあたし!あんた達!あたしの分まで必死に生きないと許さないんだからね!」


ティラノは標的をあたしに変更、目を輝かせてよだれを垂らしながらこちらに向かって走ってくる。


これでいい…これでいいんだ…!


性格の悪いあたしなんかよりも、二人が生き延びるべきだ…!


そう心の中で自分にそう言い聞かせながら、追いつかれないように全力で走る。


だが、運の悪いことに木の根を踏んで転んでしまった。


「…っ!」


終わった。


今から食われる。


でも後悔はしていない。


犠牲になることで、二人が助かるんだから…!


あたしが目をつぶって死を受け入れた、その瞬間。

パンッと乾いた銃声が辺り一面に響き、次に巨体がズシンと伏す音がした。


恐る恐る振り返って後ろを確かめると、目に入ったのは何故が倒れているティラノサウルスだった。


あれ…あたし…助かったの?


突然の出来事に困惑して倒れた巨体を放心状態で見つめるあたし、すると誰かからおーい!と声をかけられた気がした。

声がした方を向くと、二つの人影がこちらに近づいてくるのがわかった。

博愛達ではない、片方は恰幅の良い初老の白人男性でもう一人は長身の若い黒人女性だ。


…人間!久しぶりに見るあたし達以外の人間だ!

両人共海外の警察官のような服装で銃を携帯している、きっと撃ってティラノからあたしを救ってくれたのだろう。


あたし達三人はタイムパトロールだという二人組に保護され、一週間程施設で療養した後元の時代に帰還した。



失踪してから三時間程経った現代のシンガポールに帰ってきたあたし達を待っていたのは、閻魔様のような顔でカンカンに怒った担任の姿だった。

きつくお叱りを受けた後に反省文を書いたりしたけど、恐竜に襲われるのと比べたらこんなのは苦にならない。


翌日はシンガポール観光を楽しんだ、もちろんあたしと博愛とメアリの三人で。



数日後の休日。


あたしと博愛とメアリはメアリの家でゲームを楽しんでいた。

ジャンルは恐竜ハンティングアクション、端的に言えば襲ってくる恐竜を銃で撃つゲームだ。


「オーッホッホッホッ!この前の借りを返してあげるわ!そーれ!いい加減あたしに跪きなさい!この頭でっかち手短トカゲ!」

「ワーオ!優里がご乱心デース!」

「ゲーム初心者なのによく動けるね。あ、ティラノキラーの称号獲得だって。優里やったじゃん」

「よっしゃ!やっぱりあたしは優等生、すごいんだから!」

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白百合乙女と恐竜世界 ASD @Amane-Kyobashi215

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