第10幕

ぼくは、血を流しながら家に戻った。彼はぼくのせいでおかしくなったのだ。

 そう思うと、心がぎゅーとなる。そんな風に考えながら玄関のドアに手をかける。

 鍵は開いていた。来客中だろうか。

 なんだろう、嫌な予感がした。

 

 祖父の部屋は赤かった。

 そして二人の人間が転がっていた。

 片方は腹、もう片方は首が切られていた。

 片方は老人、片方は青年。

 片方はふせん付きの聖書を、片方は包丁を手にしていた。

 

 一瞬、静寂が訪れた。

 が、少年の号哭によってかき消された。

 血を吐く勢いで泣く彼の涙は穢れ無き純粋な悲しみの結晶であった。

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模倣犯 @gehenahena

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