第9幕

眼前の大悪党は僕を嘲笑していた。僕の人生を狂わしたのだ。罰が必要である。僕は包丁を取り出した。時が止まる。無音の中、素早く振り下ろした包丁は悪を切った。醜い血が飛び散る。僕はそれを少しだけ浴びてしまった。ああ、汚い。臭い臭い臭い。僕はそれを放置した。もう、それは悪でも善でもない。ただ、涙を流しかけの人形に過ぎないのだから。


 もう、寝るのも悪くないと思ったが、やるべきことがまだ残っていた。先生を守る。これが最大の任務である。

 もう二度とあのような思いはしたくない。だから、先生を他の者から守るのだ。できるだけ遠い場所に避難させたい。誰も先生に会えないようなところに。


 さぁ、いつもの場所に着いた。が、先生はいなかった。家に行こう。尾行したことがあるから、家の場所はわかる。


 ピンポーン、こんにちは!!


 先生はドアを開けてくれた。


 「こんにちは」


 先生は笑顔で返事をした。そして、僕を家に入れてくれた。

 先生は目が良くない。僕の服の血にも気が付いていないようだ。


 僕は包丁を後ろに隠しつつ、家に入っていった。


 先生の部屋の中、先生のにおい。


 「愛というものはやっぱよくわかりません。でもユダの気持ちはわかるような気がしますね。ああ、ということはこれが愛ってことですかね」


 先生は首をかしげる。


 「愛がついにわかったのか?」


 僕は少し頷いた。涙が分泌されている気がする。

 

 「ちょっとだけ」


 愛は憎悪も安心も含むと先生はおしゃった。先生に対するプラスの気持ちもマイナスの気持ちも同時に持っているこの状態、これこそが愛だったのだ。この頭がおかしくなる感覚だ。これだ。これが愛なのだ。先生を抱きしめたくなる。殺したくなる。思いっきり殴りたい。ただでさえ、弱い骨をボキボキ折る感じで。そして、ちゃんと治療してあげたい。なるほど。僕は愛しているんだ。うん、そうだ。あれ、じゃあ先生は誰を愛すか。僕か?それともアレか。アレだ。二人が仲良くしているシーンを思い出す。アレだ。アレの方を愛している。でも、もう愛すことはできない。アレはただの人形となったはずだ。いや、違う。死者を愛すなんてよくある話だ。じゃあいっそ先生を殺してしまおう。誰かを愛することはなくなるだろう。もちろん、僕を愛することができなくなってしまうが妥協だ。


 「ん?どうした?何ぼーっとしているのだ」 


 僕は包丁で切った。先生は声を上げたかもしれないし、上げてないかもしれない。でも僕の世界は静かだった。しかし、甘いし楽しい。僕は今、幸せだ。達成感。ありとあらゆる欲が消え、浄化される感覚。僕は僕の目標を達成した。幸せです。












 









先生は死んだ。























 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。











  先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。

 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。

 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。 先生は死んだ。






 



 

 






 


 僕が殺した。

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