第3話 審問官
「それで、今度は二人の話を聞かせてくれるって事だったけど…説明してくれるんだよな? 」
宿の食堂で一通り腹を満たしたクウゴは早速、話をきりだしていた。
「ええ、勿論。今この世界では二つの大国、クラウド軍王国とバルカディア帝国が各地で次々に戦争を起こし、国土を拡大しながら混乱を振りまいています。その対策のため、各国の首脳陣を集めた対策会議を開く事になり、私、ハルカ・エル・アルテミシア・シュミティアナは、シュミティアナ光国の第一王女として女王であるお母様の代理を任され開催国であるゴルドス王国へ向かいました」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ!バルトスは確かにさっきハルカの事を姫様って呼んでたけどまさかホントに王族だったなんて…」
「このバカッ。声がでけぇんだよ! 」
クウゴの不用意な発言により、周りの視線を集めてしまうのではないかと危惧したバルトスは、その拳を愚か者の頭に振り下ろした。
「いてっ!なにも殴らなくたっていいだろ! 」
それに対して殴られた当人は抗議の声を上げるが、バルトスは周りを確認し、周りの話声などの騒音に紛れて、どうやら聞いてる物が居なかった事に安堵の息を吐きながら呆れたように返す。
「やれやれ…。驚く気持ちは理解できるが俺達はあんまり目立つわけにはいかん。俺達の素性も理由の一つだがお前さんの事情だって考慮してるんだからな? 」
「…でかい声出して悪かったよ。話の腰を折ってすまなかったな…」
「フフッ、驚くのも無理ないですよ。いきなり知り合ったばっかりの人間が王族だなんて言ったら誰だってびっくりすると思います」
「ありがとうハルカ。まあ冷静に考えれば、俺みたいな自称2000年前から来ました、って存在の方が余程驚かれるし疑われる存在だよな…」
「まあそんな面白そうな存在だからこそ俺は目を付けたんだがな」
何とも楽しそうにバルトスがそう言うと、ハルカはコホンと一つ咳ばらいをし、気を取り直す様に続きを語り始める。
「それでは話を…。会談を無事に終え国に帰ろうとしたんですが、そこで問題が起きました」
「問題? 」
「ええ、私達は
「大事な会談に向かう第一王女の護衛に選ばれた一流の兵士達なんだ。あいつ等なら大丈夫だって言ってるんだが姫様は心配性でなぁ」
呑気に言うバルトスにクウゴは思わず食って掛かる。
「話を聞いただけの俺でも心配になるってのに逆にバルトスはそんなにのほほんとしてられんだよ? 」
「そらぁ、あいつ等を鍛えたのは俺だからな。あの程度でくたばる様な
「は? 」
「なんせ俺はシュミティアナ光国の近衛隊長だぜ?姫様の横に居るんだから俺がそれくらいの肩書を持っていても不思議じゃないだろう? 」
「確かに、言われてみればそうだな」
「それで話の続きだがな…俺達姫様の護衛は今回の道中、トラブルが発生した場合避難できるセーフゾーンをあらかじめ洗い出し、幾つか決めていたんだ。生きているならあいつ等もそこに向かっている筈。俺達もそこへ迎えば合流できる筈…だったんだが、脱出時に運悪く俺達の脱出艇は川に落ち、かなり流された所為でどのセーフゾーンも現在地からかなり距離がある」
ふぅ、といつの間に火をつけたのか、煙草の煙を吐き出しながら眉じりを下げ、参ったという表情でそう言うバルトス。
「しかもここは先程話したバルカディア帝国の属国領なんです。私達の脱出艇がこの辺りに流れ着いたと知られるのも時間の問題でしょうし、そうなれば指名手配されてもおかしくありません」
「ならなんだってこんな悠長にしてるんだよ? 」
「脱出艇はここから歩いて二日ほど離れたところの辺りには人の住んでいない森へと流れ着きました。見つかるまでそう何日もかからないとは思いますが、今日明日という事もない筈です。私達はここの土地勘が無い為道なき道を行けば危険、かと言って正規のルートで急いでこの国を離れようすれば怪しまれて足が付く可能性がある。そう思い、国境まではなるべく目立たない様に自然に向かう事にしたんですよ」
「そう言う事情があったのか」
「他人事みたいに言ってるが帝国領内ってのはお前にとっても都合が悪い事なんだぜ? 」
「どういうことだよ? 」
「帝国は世界的に見てもトップクラスでカーレスの扱いが酷いんです。最悪の場合誰かの所有物だとしてもカーレスと言うだけで殺される事もあるという話ですから…。クウゴも十分注意してくださいね」
「酷すぎるだろ…。全くどうなってんだよこの時代は… 」
「そうぼやくな。シュミティアナに戻ったら美味いもんをたらふく食わしてやるからよ。上手い飯を食ってふかふかのベッドで眠れば今後の方針も見てくるかもしれんぞ? 」
「俺が付いて行くこと前提じゃねーかよ」
「一緒に来ないのか? 」
「それは…」
「明日と言わず今結論を出しても俺達は構わないんだぞ?な、姫様? 」
「ええ勿論」
「さっきの話を聞いて一人で行くなんて言える程の度胸は俺にはないよ。この町もバルトスが居なきゃ入れなかったし… 」
「じゃ、決まりだな。そうと決まれば今日は早く寝るぞ。日が昇ると同時に宿を出る。寝坊するなよ」
バルトスは煙草の火を消すと話は終わりと言わんばかりに席を立ち部屋のある二階へと上がって行った。
ハルカも席を立つとクウゴに声を掛けた。
「おやすみなさい。それではまた明日」
そう微笑んだ彼女の顔に再び激しい既視感に襲われるがやはりそれが何なのかはおもいだせなかった。
―――――――――――
部屋に戻ったバルトスとハルカは今日の出来事を振り返り、クウゴについて話し合っていた。
「全く驚いたぜ…。貴女がお告げを受けたなんて言い出したのはこれが初めての事だったから、いくら光の神霊王を宿した巫女と言え半信半疑だったが…まさか本当に当たるとはな」
「私自身驚きました。始めは夢の中で声が聞こえただけだったんです。『この街にやって来る隷属紋を持たない無色のエーテル持った男の子を助けなさい』って。でも彼と、クウゴと出会って確信しました。上手く表現できないんですが、彼には何か霊王神様にとって特別なものをもっていると。彼に出会った時、私の中の霊王神様の感情が伝わって来たような気がしたんです。なにかこう…懐かしさを感じたようなものが」
「まあ奴が特別な存在ってのは間違いなさそうだな。あいつの話は本人の言う通り荒唐無稽だが嘘を吐いてる様子もない。その上隷属紋をしてないカーレスと来た。それだけをとっても特別と言わざるおえないだろ。だがあんな演技はしなくてよかったんじゃないか? 」
「彼が来た時の対応の事ですか? 」
「ああ」
「貴方は初めて会う人間に『あなたが来る事は分かっていました。あなたを助ける様お告げを受けたので力になります』と言われて警戒せず素直に話を聞こうと思いますか?それもこの世界について何も知らないという人間に… 」
「普通は信じないな」
「ほら」
「何にせよ保護できたうえに付いて来てくれるみたいだしよかったじゃないか。これも俺の人柄の良さのおかげってやつよ、姫様」
「はいはい。そうですね。バルトスのお陰ですね。という事で今日は寝ますから部屋に戻ります」
「姫様は冷たいねぇ」
閉じるドアを見つめながらバルトスは煙草に火をつけるのだった。
――――――――――
出会った翌日、地図購入した三人は街を出発した後、街道を順調に進み野宿を挟みながら三日かけて今晩止まる予定の村の付近へとやって来ていた。
辺りは日が沈み始め少し薄暗くなってきていたが日が暮れるまでには村に着く距離だ。
ここまでの道中クウゴはバルトスに野営の準備や、自分の知るモノより三倍ほど大きなウサギや角が四本ある鹿の捌き方をレクチャーしてもらいながら何とかこの世界に適応しようとしていた。
「今日は野宿せず済みそうでよかったぁ」
思わずそう呟くとバルトスから苦言が返って来る。
「生粋の王城育ちの上に女性である姫様が文句ひとつ言っていないと言うのに…男のお前が泣き言とは情けないねぇ」
「仕方ないだろ。こちとら生粋の現代っ子なんだからよ」
「おかしなことを言うな。お前さんは推定2000年前の人間の筈だが?それが現代っ子とは…ワハハハハッ」
「笑うんじゃねえよ」
「真面目な話をすると昔は機械文明が栄えていて大層栄えていたと聞くからな。それが事実なら確かにそんな時代で暮らしていたお前さんにはちと厳しい旅だろうが、男なら根性見せろ」
「わかってるよ」
「フフッ。二人とももうすっかり仲良しですね」
「どこが?! 」
「そうなんですよ姫様。自分でも嘆かずにはいられないぜ全く。己の人たらし下限に… 」
「言ってろ」
そんなやり取りをしながら地図を頼りに村へ向かっていると前方がやけに明かるい事に気が付いた。
二人もそれに気が付いたようでバルトスが急ぐように声を掛けてくる。
「おい何か変だ。もしかすると野党か邪獣に村が襲われている可能性がある。状況を確認するためにも急ぐぞ」
「あ、ああ」
「ええ、急ぎましょう」
三人が村の前へとやって来ると村の中にある一番大きな建物が燃え、村の住人と思われる人たちが怯える様に肩を抱きあって体を震わせていた。
村人たちは外からやって来た三人が近づいても気づくそぶりも見せず唯々怯えている。
その中の一人へバルトスが状況を確認するため声を掛けた。
「おい、一体何があった? 」
「え!?あ、あんたら一体なんだ?!もしかして帝国兵の増援か?! 」
「落ち着け。俺達は帝国兵じゃない。ここへ一晩世話になろうと立ち寄った旅の者だ。それで、なにがあった? 」
「そ、それが…先日、この国が帝国の属領になってから初めての審問官がやってきたんだが…」
「なあ、審問官てなんだ? 」
ふとその単語が気になり小声でハルカに尋ねると快く教えてくれる。
「審問官と言うのは帝国が自国内に派遣している属性判定員の事で、住人がカーレスかどうか判定し、隠れているカーレスが居れば見つかり次第抹殺する任務を与えられた者達の事です」
「げっ。そんな役職まであるのかよ…。俺の天敵じゃないか」
そんなやりとりをしているといつの間にかバルトスの方の話は終わっていた様でこちらに振り返り事情を説明しはじめた。
「どうやらこの村の村長の娘さんがカーレスだったらしいんだが今までは何とか国の目をごまかして暮らしていたそうだ」
「もしかして、それが見つかっちまったのか…? 」
「ああそうらしい。旧体制の時はそれ程厳しくなかったらしいんだが、国が倒れ新たに帝国領になった事でエーテル感知ができる審問官がやって来た事でとうとうバレちまったという事らしい」
「じゃああの燃えてる家はまさか… 」
「確かに燃えてる家は村長の家らしいが村長とその娘さんは森の方へ逃げたみたいだ」
「じゃあ早く助けないと! 」
「あのなぁ、お前さん分かってんのか?俺達の立場を。俺と姫様はいつ帝国に指名手配されるかもわからない状態でお前さんに至っては属性がバレた時点でアウトなんだぜ?目立つ行為はNGってのはわかってんだろ。それに追いかけてどう助けるつもりなんだ、戦う力を持たないお前さんが… 」
「それでもこんなのあんまりだろ!バルトス頼むよ!あんたは俺を助けてくれたじゃないか! 」
「で、クウゴはこう言ってるが姫様はどうするよ? 」
「当然。助けに行きます」
「そう言うと思ったぜ…。全く困った姫様だ。俺は近衛隊長として姫様の行くとこには付いて行くしかないんでな。と言う訳でクウゴ、行くなら急いだほうがいいと思うが? 」
「ありがとう。ハルカ、それにバルトス」
「ここから村長たちに追いつくには普通に行っていたのでは間に合わんだろう…。姫様アレを使う。クウゴ俺に掴まれ」
「わかりました」
「え?あ、ああ」
バルトスは腰に差していた剣を引き抜くと天高く掲げ唱えた。
「我の声に従いその力を示せ、
その瞬間バルトスへ紫の雷が落ち三人の姿はその場から跡形もなく消えたのだった。
――――――――――
――何が一体どうなってんだ?!
クウゴ達は現在一筋の雷光となり森の中を駆け巡っていた。
「見つけたぜ。審問官が自身のエーテルを垂れ流してくれていたお陰で時間がかからずに済んだな」
バルトスはそう言うと雷光解除し抱えていた二人を地面に下ろした。
「何者だ、貴様たちは? 」
気が付けば目の前にフード被った男と少女を守る様に抱きしめる男性の姿があった。
三人の姿に気が付いたフード男が問いかけてくるがバルトスはおちょくる様な声音で返す。
「あいにく悪党と話す舌は持ち合わせてないんだ。悪いね」
「帝国の審問官たる私に対して悪党とは…。どうやら地獄行きの切符を自ら買いに来た愚か者のようだな!そこのゴミの前にお前達からあの世に送ってやる。魔道火天の章、第十節、〔豪炎弾〕!! 」
ローブ男の叫びと共にその掌からバスケットボールサイズの大きな火の玉がこちらへと向かってきたがバルトスはそれを剣の一振りで消し去った。
「生憎俺は
「ば、馬鹿な… 。何故こんな処に
「恨むんなら自分の運の悪さを恨むんだな。〔紫電〕」
次の瞬間紫の閃光と共にバルトスはローブ姿の男の後ろに立っており男の腹部には大きな穴が開いていた。
ファンタジー世界に異世界転移だと思ったら2000年後の地球…だと?! ヤニカス太郎 @yanikasuTarou
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