第2話 2000年の空白


 ――ここが地球だとしたら一体どういう事なんだ?俺が知らないだけで地球に、それもユーラシア大陸にこんな異世界の様な場所が存在したってのか…?


 「どうやらお前さんにとって、ここがユーラシア大陸だって事は、都合が悪い事だった様だな。しかしおかしな事もあるもんだ。カーレスの事情やここが何処なのかも分かってなさそうな奴が大陸名だけ知っていそうだなんてな」


 バルトスがそういうとクウゴは青ざめた顔で問いかけた。


 「此処は地球と言う惑星…世界の名前なのか? 」


 「そうだ。なにを当たり前の事を言ってるんだ?と普通は思う質問だが…お前さんにはその質問をするだけの事情があるって事だよな? 」


 「ああ」


 「良ければその事情って言うのを聞かせて貰えないかな?あ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はハルカ。バルトスと旅をしている彼の仲間です。それで、どうですか?話してもらえませんか? 」


 今までクウゴとバルトスのやり取りを聞いていた少女、ハルカがクウゴにそう尋ねる。

 クウゴはそれに対して少し考えた後、口を開いた。


 「わかった。あんた達は信用できそうだし、バルトスには助けてもらった恩もあるし話すよ。ただ、俺が今から話すのは紛れもなく俺に起こった出来事だが、荒唐無稽すぎて信じてもらえるか怪しい内容って事は前置きしとく」

 

 クウゴは自分の発言に二人が頷くのを確認すると、ゆっくり話始めた。


 「俺は地球と言う惑星の西暦2023年の日本と言う国で暮らしてたんだ。それが突然、俺の感覚で言うと昨日の事になるが、目が覚めるとこの街から北西に当たる草原に居たんだ。俺は丸一日歩いて何とかこの街まで辿り着いたんだが、俺の居た場所ではここで見た生物や魔法みたいな現象…あんた達がエーテルと呼んでる物は少なくとも存在してなかったし、文化レベルも違う。だから俺は最初地球とは全然異なる世界に来たと思っていた。なのに…」


 「なるほど。違う世界に来たと思っていたら俺がユーラシア大陸なんて言うもんだからここが地球だと気が付いて、自分の知っている地球との差異でお前さんの顔色は悪くなったわけだ。まあお前さんの言っている事が事実だとしたらカーレスを知らなかった事なんかのつじつまも合うな」


 「ああ」


 「はぁ。自分で言うのもなんだが俺と出会えて幸運だったな。唯でさえ無属性だってのにこんなこと他の奴らに聞かれてみろ、俺がお前の立場だったらどうなるか想像もしたくないな」


 「そうですね。他では絶対口にしない方がいいですね」


 「やっぱり、俺の言ってる事ってあんた達からしても異常なのか? 」


 バルトスは煙草をくわえ火をつけ一吸いすると煙をゆっくり吐き出しながら答えた。


 「結論から先に言うぞ。お前さんの推察通りここは地球だ」


 「やっぱり…! 」


 「まあ、最後まで聞け。確かにここは地球だ。だがなお前さんの言っていた地球と決定的に違う点がある。それは… 」


 「それは? 」


 「西暦と言う暦は今から約2000年以上前に終わりを迎えて今は光隆こうりゅう歴520年。お前さんが頭のイカレたクレイジーやろうじゃなければ2000年以上の時を越えてきた事になる」


 「嘘…だろ…? 」


 ――バルトスは嘘言ってる様には見えないし、ハルカだって俺の話には困惑した様子だった。それにこの場所で異質なのは俺の方だ。いったいどうしてこんな事に…。


 クウゴが突きつけられた現実に打ちひしがれていると、ハルカが声を掛けてきた。


 「兎に角、今分かっている事は彼方は孤立無援の状態で現代の知識が欠落してるって事ですね。だったら暫く私達の旅に付いてきませんか?それから先の事は今のこの世界を少し見てから決めても遅くはないと思います 」


 「え? 」


 「いきなり決めろだなんて酷な事は言いません。話を聞く限り混乱もしているでしょうから…。此処の宿代は私達が持ちますし、私達の事情も夕食の時にでもお話します。ですからそれを聞いてから、今日一日休んで決めて貰ってかまいません。どうですか? 」


 「そうだな。俺も姫様の意見に賛成だ」


 「俺としてはありがたいがいいのか? 」


 「勿論。彼方の話を聞いた後で、それではさようならと放り出せる様な冷たい人間に私は成りたくないですから」


 そう言いながらハルカは微笑み、クウゴは見とれそうになったがバルトスが口を開いた事で平静を保った。


 「さっき説明した通りこの世界でカーレスが生きていくのは困難なんだ。おまけにお前さんはここの常識を知らない。だが、側から見りゃ異端分子にしか見えんだろうが俺は面白い事や変わった事が大好きな口でね。お前さんが来てくれりゃ退屈しなさそうで大歓迎さ。勿論それなりに働いてもらうが無茶な事は言うつもりもない」


 「ありがとう、二人とも」


 ――訳の分からない事の連続で不安だったがいい人たちに出会えてよかった。


 クウゴは二人の温かな対応に安堵した。

 すると今まで緊張によりまぎれていた疲労感や、空腹感が一気に押し寄せてきて、盛大に腹の虫が鳴き始める。

 

 クウゴが恥ずかしさで頬を赤らめるとバルトスは盛大に笑い言う。


 「ワハハハッ。腹の虫が鳴るのは元気の証だ。取りあえず飯にするか」


 「ええ。じゃあ行きましょうか」

 

 ハルカもくすりと笑うとクウゴを食事へと促すのだった。

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