統一性のないダイナー
かいばつれい
統一性のないダイナー
メイトリックスダイナーのメニューは多種多様である。
キューバサンド、ペパロニのピッツァ、バジル入のトマトパスタ、クレーム・ブリュレ、山盛りのマシュマロとアイスクリーム、そしてチーズバーガーとスプライトのセット、エトセトラ。
アメリカもイタリアもフランスもごちゃ混ぜの、全く統一性のないメニューだが、客からは全品絶賛されていた。
これらメニューの選定基準が何なのか、気になった店員の山田はある日、店長の有本に選定基準を尋ねてみた。
「店長、このメニューのラインナップって何か法則でもあるんですか?どうしてチーズバーガーだけスプライトとセットなんです?」
有本はパティをこねがら答えた。
「法則?ああ、ちゃんとあるよ。夢とロマン、そして感動を与えてくれるものさ。チーズバーガーとスプライトもその法則に則って作ったんだ」
「夢とロマン、感動?それだけですか?」
「うん。そうだよ。だけど、何もそれだけって言うこたあないだろう、その三拍子って人生において非常に大切なことだと思わないかい?」
唐突に人生論の話になり、山田は慌てて返した。
「は、はい。とても重要だと思います」
「だろ?ちょっと今から臭いこと言うよ」
「臭いこと?」山田は鼻をつまむが、有本はそれじゃないと首を振った。
「夢とロマンと感動はね、言うなれば人生のスパイスさ。人生の中の旨味、コクと言うべきかな。この三つは人生のフルコースの味を最高に引き立ててくれる。僕にも昔は孤独な時期があった。でも、ある存在が僕に夢とロマンと感動を与えてくれた。世の中にはこんなに素敵なものがあるんだって気付かせてくれたんだ。だから僕は他の人にも、僕が感じた夢とロマンと感動を知ってもらいたくて、この店を始めたんだよ。メニューはそのためにある」
いつの間にかパティは成形され、天板に等間隔で並べられていた。
山田は有本の話に対し、当初はメニューの話から壮大な話に広がってしまったと後悔したが、有本の言っていることが冗談でも狂言でもないと感じると、段々、彼の話にしっかりと耳を傾けるようになっていた。
「なんとなくメニューのコンセプトが分かったかい?」
「はい。ええと、要するに、大変意義のあるメニュー作りを心掛けているということですね」
山田はもっともらしい言葉でまとめた。
「よろしい。それが分かれば、チーズバーガーとスプライトがセットの理由も、そのうち分かるさ」
有本が言い終わったと同時にカップルが入ってきたため、会話はそこで終了した。
「いらっしゃいませ。ガールフレンドが菜食主義で、ハンバーガーが滅多に食べられない方は是非、当店のチーズバーガーとスプライトのセットをご注文ください。もちろん、女性のお客様もどうぞ、ご遠慮なくご注文ください」
有本の接客トークに、入ってきた客が吹き出す。
「安心して。私たち、強盗に来たわけじゃないから」
客の言葉に有本も笑う。
それぞれが何故笑ったのか、山田には理解できなかったが、これも有本の言う、夢とロマンと感動を与える仕事のうちのひとつだと独り言ちた。
店の営業終了後、有本は暗い店内で熱心にスマホを覗き込んでいた。
「よしよし、来週はジャパンプレミアにディーゼルが来日か。コロナ・エキストラとライムを大量に仕入れとかないとな。ロック様と仲直りしてほんと良かったよ。それにしても、映画っていいもんだなあ」
統一性のないダイナー かいばつれい @ayumu240
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